新たな体験を提供するデジタル技術を取り入れた店舗やサステナビリティをテーマにした居心地の良さを感じる新感覚な店舗のアイデアなど、業種・業態を問わず自由な発想を広く公募しました。 本記事では、記念すべき第一回目の「次世代店舗アイデアコンテスト」で最優秀賞を受賞された松岡秀樹さん、審査員特別賞を受賞された藤原隆太郎さんにコンテストに応募いただいた経緯、そして作品に込められた思い、コンテストを振り返った感想についてお話を伺いました。

インタビューmovie

「NEXSTO~次世代店舗アイデアコンテスト2021~」をふりかえって

「NEXSTO~次世代店舗アイデアコンテスト2021~」に応募したきっかけを教えてください。

松岡秀樹さん(以下、松岡):私は現在、主に住空間設計に軸足を置いていますが、以前は店舗設計の仕事をしていて、今回たまたまNEXSTOを知って、飲食店がコロナ禍で参っている最中、この状況を打破することができる、何か面白い切り口のアイデア提案できたらいいなと思い応募しました。

松岡秀樹 インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。元店舗デザイナー。店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がける。現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。“Love&Design”を思いながら“空間”につながるユーザー体験を発見していきたい。メインテーマは「デザイン」「教育」「ビジネス」。3つのテーマを絡ませて新しい価値・提案をつくり出すことに熱量をおいている。三児の父。都市、建築、店舗など、空間デザインについての記事を「福岡の経済メディア NetIB-News」に連載で寄稿しています。
https://www.data-max.co.jp/

藤原隆太郎さん(以下、藤原):私も「登竜門※1」を見て応募しました。これまで店舗デザインのアイデアを募るコンテストはあまり見かけたことがなく、興味を持ちました。学生でも社会人でも、実績のないデザイナーでも、誰でも参加できる点に魅力を感じました。

※1 登竜門:日本最大級のコンテスト情報サイト。 https://compe.japandesign.ne.jp/

※1 登竜門:日本最大級のコンテスト情報サイト。
https://compe.japandesign.ne.jp/

藤原隆太郎 TRYANGLE DESIGN代表
1986年、宮崎県生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業。東京、福岡の店舗デザイン会社で経験を経て、2018年福岡にて独立。造形美へのこだわりはもちろん、クライアントとその先にいるエンドユーザーとの“関係性”を強く意識したデザインを行う。型にはまったデザインを繰り返さないよう、常に「なぜ?どうして?」と自問自答し、クライアントに丁寧、実直に向き合うのがモットー。今後は、長く愛され続ける店舗を作るための店舗ブランディングを行いたい。

2021のテーマ「次の時代のニューノーマルなお店を考えよう」についてどう思われましたか?

松岡:「ニュー」とか「新しい」というキーワードが好きなので、率直に面白そうだと感じました。「ニューノーマル」って「新しいスタンダード」という意味だと思いますが、コロナ禍ということもあり、そういうものがこれから必要とされると直感的に思いました。テーマが広いので、どうやって読み解こうか悩みましたね。

藤原:さまざまな場面で「ニューノーマル」という言葉をよく見かける時期でしたよね。こういう抽象的なキーワードを元にしたコンテストって、プロダクト系では多いですが店舗ではどうやってカタチにするんだろう、と思ったのが第一印象です。他の応募者がどういう提案をするのかも興味がありました。それに、審査員の方々が多彩ですよね。彼らのコメントもウェブサイトに出ていたので熟読しましたし、各企業の業態や取り組みなども意識して提案作品を作りました。

受賞作品について

受賞作品の概要。そして伝えたかったメッセージを教えてください。

松岡:「避密のレストラン」 は、建築・不動産・モビリティ・飲食という4つのジャンルの産業を集積して新しい飲食形態を作り、「中外食」というコンセプトをもとに、現代のライフスタイルと結びつけて飲食業界の支援をするアイデアです。ドックにキッチンカーを集結させて、さまざまな食のコンテンツを展開する新業態を打ち出し、三密を避けながら屋台文化を継承する仕組みを考えました。

最優秀賞「避密のレストラン」 / 松岡秀樹

藤原:「『#試着してみた』くなる店舗」は、「『試着体験』をアップデートする」がコンセプトです。ECサイトの普及によって店舗は購入する「場所」から「選択肢」の一つへと変化しましたが、店舗には「実際の商品を手に取り、試着できる」という強みが相対的に生まれました。こうした実店舗の強みを活かしながら、試着をもっと楽しい体験に変えるための施策として、カメラinミラーの設置、専用アプリの開発、店舗レイアウトの最適化などを提案しました。

審査員特別賞「『#試着してみた』くなる店舗」 / 藤原隆太郎

受賞作品はどのような発想・着眼点からアイデアが出たのでしょうか?

松岡:コロナ禍、飲食店が通常通りに営業できない状況に陥っていて、周囲でも困っている飲食店が多かったので、これまでにない飲食店の使い方が提案できたらいいなと思ったのがきっかけです。そこで、今あるものを逆張りするところから考えをまとめていきました。 例えば、固定されている店舗が動くとか。建築って動かないものという前提があるので、動かすためにはタイヤをつけよう、そうするとモビリティ産業が入ってくるな、と。逆張りの発想こそ、既成概念を打破する突破口と思い、そういう観点から組み上げていきました。 また、「中外食」というコンセプトは、「内食」「中食」「外食」という3つの形態がある中で、最近、その3つの枠に収まりきらない飲食の形態がたくさん出てきていると感じたことから発想しました。ゴーストレストランやデリバリーのような、従来の「中食」ではない形態です。それらと、実空間を持つ飲食店と結び付けたいという思いを作品にこめました。

最終審査会の様子

藤原:テーマになっている「ニューノーマル」という言葉を掘り下げました。まず、新しい生活様式を「アパレル店舗での購入習慣」と仮定したところ、「なんで自分は洋服を欲しくなるんだろう?」という疑問に至りました。私の場合、根底にある願望は「オシャレになりたい」でした。そこから、 アパレルショップは単に洋服を買う場所ではなくオシャレを買う場所だ、という気づきに至りました。でもショップで試着をするのって、個人的にはハードルが高いんです。 私の場合、結婚するまでは洋服を買いに行くのが億劫だったのですが、今は妻と一緒に行って見てもらいます。お世辞でも「似合ってる」と言われると嬉しいんです。そういう楽しい実体験があったので、一人でもオシャレを楽しめる試着体験ができるお店がつくれたらいいなと思ったのがスタート地点でした。

「NEXSTO~次世代店舗アイデアコンテスト2021~」に参加した感想を教えてください。

松岡:楽しかったです。応募期間=製作期間が最大で3か月間あり、その間は結構大変でした。コロナ禍の今だからこそ提案できる案もあって、今年はコロナが収束していく方向になるのならば、また違ったアイデアが出てくるのではないでしょうか。

藤原:私も楽しかったですし、個人的にも転機となりました。かなり調べて準備して、自分にとってのニューノーマルを考え抜きました。「店舗をつくる意味って何?」という思考ループにハマる、辛い瞬間もありました…。

「NEXSTO~次世代店舗アイデアコンテスト2022~」に向けて

「NEXSTO~次世代店舗アイデアコンテスト2022~」にチャレンジしたいと考えている方に何かアドバイスはありますか?

松岡:応募者は2021年の受賞作品を見て、そのベクトルと同じ方向で突き進むべきか、翻すべきかを、まずは考えると思います。昨年の開催時期はコロナ禍の一番悪い状況が続いている時でした。一方、今年はウィズコロナが定着し、回復の兆しが見えつつあります。そのような中でどういう方向性を打ち出すか、それぞれ考え抜いてほしいです。

藤原:Z世代の感性が気になります。デジタルネイティブと呼ばれる世代が、次世代のリアル店舗をどのように表現するのか。今年は新たに学生賞も新設されるとのことでしたので、本質的な提案はもちろん、「こんな店舗はカッコいいだろう」という、これまでにない新しい感性を活かした提案をしてもらいたいと思います。

次世代店舗を形成する上で、今後デジタル技術はどのような役割を果たすと思いますか?

松岡:私は今も店舗に来る人はある程度アナログを求めていると思っています。アプリ等デジタル技術を用いれば買い物は家でもできますし、せっかく実店舗に行ったらリアルな空間で誰かと交流する体験がしたい。もしかしたらZ世代は違うのかもしれないですが。

藤原:私もデジタル技術ありきのサービスは今後、特に若い世代の中で受け入れられなくなっていくと思います。あくまで使う人が便利なもの。それがアナログなものであっても、デジタル技術を用いたものでも、消費者は好きなものや便利なものを選ぶし、特にその傾向はZ世代に強いと思います。

今後の抱負や挑戦したいことをお聞かせください。

松岡:サステナブルやSDGsが盛り上がっている印象を受けるので、その中で自分のできることをしたいです。日本は新築信仰が強いので、今ある空間のアセットを組み合わせて新しい産業やサービスを提案できたらいいと思っています。

藤原:最近、メタバースに興味があります。店舗デザインも続けますが、仮想空間内の店舗づくりもしてみたいです。メタバースが普及すると、既存のSNSとは違うコミュニケーションサービスが生まれるのではないかと思っています。

取材・文:中嶋文香(丹青社) 撮影:大塚啓太(丹青社)


【関連記事】
デザイン情報サイト『JDN』
●新しい時代の体験価値をつくる、「NEXSTO~次世代店舗アイデアコンテスト2021~」 プロジェクトレポート
https://www.japandesign.ne.jp/report/tanseisha-nexsto/