第2回開催となった「NEXSTO~次世代店舗アイデアコンテスト2022~」では、最優秀賞に「Matching Everyday !」(浦口果歩さん/愛知県立芸術大学3年)、優秀賞に「のりおりチャリめぐり」(重松希等璃さん/東京都市大学大学院1年)、奨励賞に「Transformal」(里石真留美さん/東京藝術大学大学院2年)が選ばれました。本記事では、審査員を務めた丹青社 CMIセンターの鈴木朗裕が3名の受賞者の方にインタビューをおこなった様子をお届けします。 (所属およびインタビュー内容は取材当時のものです。)

「NEXSTO~次世代店舗アイデアコンテスト2022~」に応募したきっかけを教えてください

鈴木)本日はよろしくお願いします。最優秀賞の浦口さん、優秀賞の重松さん、そして奨励賞の里石さん。皆さん学生ですね。2022年は、並み居るプロや社会人の方たちを押しのけ、上位三賞を全て学生の皆さんの作品が占める結果となり、審査員や主催者の中でも驚きがありました。そういう意味でも、今日はどんなお話が聞けるのか楽しみです。 それでははじめに、「NEXSTO~次世代店舗アイデアコンテスト2022~」(以下、「NEXSTO」)に応募されたきっかけを教えてください。

浦口)私はテーマである「ワクワク」に惹かれました。普段からコンテストに興味はあるものの、どうしても大学の課題を優先してしまい、なかなか応募することができずにいました。そのような中で、大学の課題で店舗について考える時間があり、興味がわいてきた頃に、登竜門(※)で「NEXSTO」のことを知りました。2021年のテーマ「ニューノーマルなお店」は、やや堅い印象で、私には少し難しいかなと思ったんですけど、2022年はテーマが「ワクワク」になって、これは!と思い応募しました。

浦口果歩さん※1

(※)登竜門:丹青社のグループ会社(株)JDNが運営する日本最大級のコンテスト情報サイト。日本から参加できるコンテスト情報を年間2,000件以上紹介している。(URL:https://compe.japandesign.ne.jp/)

(※)登竜門:丹青社のグループ会社(株)JDNが運営する日本最大級のコンテスト情報サイト。日本から参加できるコンテスト情報を年間2,000件以上紹介している。(URL:https://compe.japandesign.ne.jp/)

里石)私は大学の研究室からの案内で知りました。自分の製作軸を外に向けて発信して、何か結果を残したいと考えていた時期でもあったので、応募しました。これまで、研究室ではいろいろなことに取り組んできて、ある意味、自分をジェネラリストだと感じていたんですね。そのため、いざ応募しようとした時に、数ある専門性の高いコンテストの中でどれに参加したらいいか迷っていたんです。でも、今回の「NEXSTO」は自分に合っているなと思えて、力試しをする良い機会だと捉え、応募に至りました。

重松)私も知ったきっかけは登竜門ですね。普段からコンテストにはよく参加する方なんですけど、「NEXSTO」は他の建築系のコンテストに比べると提出物に対する条件や制限が少なく、ある程度、どんな提案をしても構わないという雰囲気がありますよね。ちょうど、大学で商業施設の再開発についての課題があり、いろいろな問題提起をしていた時期でもあったので、大学での課題や取組みが活かせて、かつ、学外のさまざまな方からフィードバックをいただける良い機会だなと思い応募しました。

2022年のテーマ「ワクワク」についてどう思われましたか?

鈴木)初年度の2021年は「次の時代のニューノーマルなお店を考えよう」というテーマのもと、実装できるアイデアを募集した結果、社会人やプロの方々の、面白味がありつつも比較的現実的な内容の作品が表彰されました。第2回を開催するにあたり、あらためて「NEXSTO」の方向性を審査員の中で話し合った際に、デザインの楽しさや、人をワクワクさせるようなアイデアをみんなが期待していると分かって。じゃあ思い切って、次のテーマは「ワクワク」にしようとなりました。先ほど、浦口さんからも「ワクワク」に惹かれたとのお話がありましたけど、テーマについてはどう思いましたか。

浦口)楽しさの大切さをあらためて感じました。私は元々アートを専攻していて、大学からデザインを学び始めたのですが、その中で、デザイン=問題を解決しなくてはならないものだという思いに捉われてしまい、少し思い悩んでいました。そのため、今回、自分が楽しいと思えるアイデアを、審査員の方から「ワクワクが手段ではなく目的になっているところが素晴らしいね」と総評いただき、とても救われた気持ちになりました。参加して良かったなと思えました。

鈴木)ありがとうございます。重松さんはいかがでしたか。

重松)私も「ワクワク」は大切だと思います。ワクワクするもの、面白いものをつくろうとすることは、当たり前であるべきだと思いますし。ただ、今回のようなコンテストにおいては、あまりに実現性の薄いアイデアでは、審査員や主催者に共感してもらえないのかな、とも思っていました。「ワクワク」は目的としてあるんですけど、リアリティだとか、実現への辻褄をどうデザインしていくか。そういうアプローチの仕方が大切かなと思います。

鈴木)デザインとテクノロジー、フィジビリティを両輪で考えていくデザインエンジニアリングのように、今は双方からアプローチして進めていくことが求められてますよね。里石さんはいかがでしたか。

里石真留美さん※2

里石)「ワクワク」って曖昧ですよね(笑)。明確なゴールがない中でデザインをしていくところは、今回とても新鮮でした。でも、デザインをする上ではゴール設定が必要で、自ずとゴールの部分は自分の体験や、周りの人たちの話から見つけることになりました。今回、いろいろな人に「こういうものがあったらいいな」という話をたくさん聞いて、そこに自分の経験を含ませることで、明瞭なサービス体験のアイデアを提案できたと思います。

鈴木)ありがとうございます。いろいろなアプローチ方法がある中で、人それぞれのやり方を見つけていくんだなと、お話を聞いて思いました。

受賞作品の概要と伝えたかったメッセージを教えてください

鈴木)ここで、あらためて応募いただいた作品の概要と、作品を通して伝えたかったメッセージを教えてもらえますか。

重松)「のりおりチャリめぐり」は、駐輪場の用途をもった立体的な商業施設です。立地を自由ヶ丘として、再開発をする設定でつくりました。自由ヶ丘って、気持ちの良い体験がいろいろとできる街だと感じてるんですけど…、駐輪場につまらなさを感じていて(笑)。もう少し、利用者が駐輪プラスαの体験ができて、施設側もお金を稼げる建築にできないかなと。そこから、自転車の乗り入れ方法や停め方、商業面などを考えていきました。

鈴木)重松さん、提案書の作り方うまいですよね。表紙のパースを見た時に、まず、建築のかっこよさに目を奪われて。中身からも設計的な思想が読み取れましたし、しっかりとコンセプトを立てて考えていることが伝わってきました。里石さんの作品はどうですか。

里石)「Transformal」はシンプルに言うとフォーマルウェアのレンタルです。例えば、お気に入りの洋服を着て出掛けたい日に、今日の受賞者インタビューのような少しフォーマルな場所へ行く予定も重なってしまい、服装をどうしようと悩んだ時に、ジャケットさえあれば悩みを解決できるのかなと考えて。そこから、持ち歩くのは不便だから、レンタルできたらいいな。ターゲットはフォーマルな場所に行く機会の多い人、となると、駅なんかにあると便利かなって。

鈴木)この作品はサービスのイメージがとても伝わりやすいですよね。おそらくサービスデザインって、あれもこれもと膨らみがちだと思うんですけど、どのようにアプローチされましたか?

里石)ある程度絞って、シンプルな方法で解決できることを意識してつくりました。「ワクワクするって何だろう」と考えた時に、好きなものを、好きな時に、好きなようにやれることなのかなって。私は服が好きなので、じゃあ、好きな服が着られないところはどこかなと。

鈴木)よく絞られて考えてますよね。一方、重松さんはまた異なる角度からのアプローチですよね。

重松)私の場合は建物をつくることが前提にあるので。建物に昇華できる体験を考えた時に、自転車を思いついて。その上で、何をやろうとしているのか、どんな問題を解決していきたいのかをシンプルに表現する。相手に伝わりやすいことが大切だなと感じていて、製作していく過程ではそこから外れないように自分で操作していく感覚でした。

鈴木)「NEXSTO」って、課題を自分で設定する必要がありますよね。浦口さんの作品はどうですか。

浦口)「Matching Everyday!」は体験型スーパー、出会いを生み出すスーパーマーケットです。私はスーパーに対して、多くの人が行き交う場所なのに、言葉を交わすこともなく、ポツンとした印象を抱いていて。そこに「出会い系スーパー」という言葉を思いついて。正反対とも思えるものがくっついたら、きっとワクワクするだろうなと(笑)。そこから、普段自分たちが人に話しかけたり、話しかけられたりする時ってどんなシチュエーションなのかを考えた時に、ペットや子どもを連れている人には話しかけやすいなと思い、スーパーの中を自由に動き回るショッピングカートを思いつきました。

鈴木)これは非常にインパクトのある作品でした。いろいろな性格のショッピングカート型ロボットがいるんですよね。ツイツイとか、グイグイとか(笑)。このあたりのエッセンスにも楽しさや面白味を感じましたし、何より着眼点が審査員から評価されてましたね。コロナ禍も終息に向かっている時期で、人と人との関係がこれからどうなっていくのか、みんな少し不安を抱いていて。スーパーって人がいるのにすれ違うだけで会話もしない。ここに着眼したところ、「インサイトの持っていき方がとてもいいよね」と話をしていました。実は、最終審査では当初、最優秀賞と優秀賞の2作品を選ぶ予定でしたが、審査員からこの3作品を推す声が強く、最終的に、奨励賞を新たに設けるというかたちとなりました。

普段の活動や取り組みについて教えてください。
また、「次世代」についての捉え方を教えてください。

鈴木)重松さんはコンテストによく応募されていると、お話しいただきましたけど、普段のクリエイティブやデザイン、建築への取組みは、大学の課題が中心ですか?

重松)そうですね。大学の課題をやりながらコンテストにも取り組んでいます。

鈴木)コンテストに割く時間は、どのようにつくっていますか?

重松)空きコマにがんばっています(笑)。授業は時間割が決まっているので、スケジュールは比較的組みやすいです。何曜日のこの時間はこのコンテストにあてようとか。

鈴木)すごいですね(笑)。コンテストに普段の取組みで活かせている面はありますか?

重松)新しいものを提案する時は、共感してもらうことが大切で、それは、相手にとっての受け入れやすさにも繋がるのかなと思っています。自分で感じたことだとか、自分の体験から話をしていくと、相手も想像しやすいと思いますし、頭の中でストーリーを展開しやすいのかなと。共感を得るためのエビデンスなんですかね。今回のアイデアも、普段自分が自転車を使っているところから始まっています。

鈴木)普段の何気ない行動が着眼点になってるんですね。次世代に対してはどう捉えてますか?

重松)シンプルに言えば新しいことですかね。ただ、全く新しいことでなくても、今あるものや、今あることに新しい要素や体験が加わることでそうなるのかなと思います。新旧のパーツが組み合わさった時に、全体として新しく見えるものが次世代として捉えられるのではないかなと。

鈴木)今の時代、新しさって、コンバージェンスしていくことで生まれていくケースが多いのかなと私も思います。その中で、共感を得られるものが、人に新しさも感じてもらえる体験になるんですかね。里石さんはどうですか。

里石)この作品を出した後、考え方も変わってきました。私は普段テクノロジーの分野を学んでいて、課題解決をする手段として、テクノロジーなり、開発費、つまりお金なりに頼るケースがままあるんですけど、そういうものに頼らず、もっと人間らしいシンプルな行為で解決できたらいいなと思うようになりました。日常の中にあるごく普通の事柄を、拡張していければいいなと。

鈴木)里石さんは何学部ですか?

里石)デザイン科です。所属している研究室はスペキュラティブデザインを掲げていて、問題をクリエイティブで解決していこうと。

鈴木)普段から課題解決のアプローチを研究しているんですね。次世代に対してはどうですか?

里石)次世代って、一言で言えば無駄なこと、無駄な要素がたくさん詰まっているものだと思います。AIは今、ものすごいスピードで進化してますけど、無駄なこと、お金にならないようなことを、あえて突き詰めていくと、その中から自然と次世代は生まれてくるのかなと。何が最終的に結びつくのか、役立つのかはその時点では分からないわけですし。それが、人間らしいクリエイティブで可憐な行為だと思います。

鈴木)私もそう思います。仕事においても「新しさ」だけに捉われず、自分の身の回りにあるものを一度整理して考えたりすると、意外といい発見につながることもありますしね。
浦口さんはいかがですか?

浦口)私はデザインで課題解決をしてみたいと思って、今デザイン科で学んでいるんですけど。最初にもお伝えしたように、このコンテストに応募するまでは、いろいろなことに意識を捉われてしまい、しっくりくるものを生み出せていない感覚がありました。それが「ワクワク」に出会ったことで、何にも縛られず、振り切ったものをつくろうと思えるようになったので、この作品は普段の経験から生まれたというより、この作品が次の私の経験を生み出したなと思っています。

鈴木)面白いですね。次世代に対してはどうですか?

浦口)大切なことは、未来が想像できるもの。「こんな未来楽しそうだよね」とみんなに納得してもらうことだと思います。あらゆることが実現可能と思える今の時代に、学生のうちに思い切ったことを伝えておきたいと思っていますし、それが社会に出た時のものづくりに活きてくればいいなと期待しています。

鈴木)クリエイティブに取り組んでいく上では必要なことですよね。お話を聞いて、あらためて私もそう感じました。

「NEXSTO~次世代店舗アイデアコンテスト2022~」に参加した感想・メッセージをお願いします

鈴木)では、最後に「NEXSTO」に参加した感想と、2023年に応募する人たちへのメッセージをお願いします。

重松)提出物に対するレンジの広さは、応募する上では良かったです。想像力を自由に働かせてつくることができたので。応募する方へのメッセージとしては、こういったコンテストには新しいものを生み出したい人が応募することが多いと思いますが、問題解決できずに諦めてしまう人もいると思うんですね。時間はかかるでしょうが、やりたいと思えるアイデアと向き合って、あったら楽しそうと思わせるストーリーをつくりきることが大切だなと思います。

重松希等璃さん※3

鈴木朗裕

鈴木)例えば、最初に思いついたアイデアなんかは、私も大切にしたいと思っていて、それって何かきっかけがあって思いついているわけですよね。試行錯誤しながらかたちにしていく過程の中で、なかなか自分では気づけていないところも、先ほどお話ししたように、一度広げて整理してみると、こういうことだったんだなと、後から気づけるところもあったりして。それに、成立する時って、無理せずつながることも多いですよね。それでは里石さん、いかがですか?

里石)このコンテストをきっかけに、「ワクワク」について自分なりに考えました。普遍的なテーマであるからこそ、逆に普段しっかり考えることがなかったので。考える機会の場として、参加してとても良かったなと思っています。2023年も何かしら広いテーマとなった時には、それについて考える、一人でもいいですし、チームで議論してもいいですし、それはまたとても良い機会だと思います。

鈴木)2023年のテーマは「ここち良さ」にしようと考えています。人にとってのここち良さは、人それぞれ違うと思いますし。応募してくる人たちがどう捉えるか。まさにインサイトのところで、着眼点をどこにおくのかも見てみたいですし、それに対するアプローチも楽しみです。まさに、今日受賞者の皆さんが話してくれた、そういうところが垣間見れるといいなと思っています。
最後に、浦口さんはどうでしたか?

浦口)審査の際に、単に評価されているのではなく、コミュニケーションをとってくれているなと感じられたところが良かったです。はじめは、空間デザイン寄りのコンテストなのかと思っていて、自分の作品が少し場違いじゃないかと心配していたんですけど、二次審査の際に、インサイトのことをお話ししたら、とても興味を示してくれて。結果的に、最終審査には自信を持って臨むことができたんですね。他人の視点を取り入れることのできる、とても良い機会だと思いました。

鈴木)2022年は、皆さんのような若い方々が大勢参加してくれて、勢いのある作品をたくさんいただくことができました。もちろん、社会人の方やプロの方たちも当然参加されているわけですけど。ただ、「ワクワク」というテーマに対して、次世代の人たちのアイデア、これからの時代をつくっていく、若い人たちの思いが強く出た作品が多かったからこそ、学生が賞を独占できたのかなという感想がありますね。受賞者の皆さん、今日はどうもありがとうございました。


※1
浦口果歩(うらぐちかほ)
愛知県立芸術大学3年
美術学部デザイン・工芸学科 デザイン専攻

※2
重松希等璃(しげまつきらり)
東京都市大学 大学院
総合理工学研究科 建築・都市専攻 建築学領域
手塚貴晴研究室 博士前期課程 1年

※3
里石真瑠美(さといしまるみ)
東京藝術大学 大学院
美術研究科 デザイン専攻 修士2年