PROJECT

施設の価値を高め続ける、
前例なき美術館の運営プロデュース
鳥取県立美術館
PROJECT OUTLINE
あらゆる空間は、完成がゴールではない。訪れる人のこころを動かすためには、完成後の「運営」が必要不可欠である。空間づくりを生業とする丹青社では、公共施設の運営や事業プロデュースにも果敢に取り組んでいる。現在携わっている全国20施設のうちの一つが、2025年にオープンした鳥取県立美術館だ。本記事では、中心メンバーである宮本、砂川、稲葉の3名が、主に5年間にわたる開館準備期間における挑戦の軌跡を語る。
初めてづくしのプロジェクトに、チーム一丸となって挑む
鳥取県立美術館ができるまで、鳥取県は国内でも数少ない「県立美術館のない都道府県」の一つだった。県民待望の美術館であることに加え、公立美術館の新設・設計から運営までのPFI事業(※1)としては全国初であることからも注目を集めていた。設計事務所や建設企業、運営、清掃・警備会社など各領域の専門10社からなるコンソーシアムに丹青社も参画。展示収蔵環境づくりのほか、開館準備、広報・ブランディング、集客促進、学芸業務、物販飲食事業などを含む運営事業に幅広く携わっている。長年にわたり公共施設の運営に携わってきた運営推進部の宮本は、開館までの準備期間をこう振り返る。「国内において、すでに開業している公共施設の運営維持管理業務を、指定管理者や業務委託などで民間に発注するケースは多くありました。しかし鳥取県立美術館の場合は、新たに美術館を建てる設計建設・運営維持管理と包括的にPFIを採用している点で、全国初のケースなのです。丹青社はこれまで20年近く施設運営や事業プロデュースに携わってきましたが、鳥取県立美術館は開館準備期間が5年と長期にわたること、多くの事業パートナーや地域との密な連携が必要不可欠だったことなど、開館前から挑戦の連続でしたね」。
※1 PFI:Private-Finance-Initiative(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)。公共施設の設計建設や改修、運営などを、国や地方自治体から民間企業に発注して行う公共事業手法のこと。公共としては、資金調達などコスト面の負担減や質の高い公共サービスの提供を叶えられ、民間にとっても事業創出の機会が生まれるといったメリットがある。
宮本をはじめとする運営推進部のメンバー以外に、本プロジェクトには決して欠かすことのできない存在がいる。現地で運営に携わる常駐メンバーである。彼らの採用においては、全国から応募のあった候補者一人ひとりと面談を重ねた。開館準備期間のプロジェクト推進を主として担当した砂川は「結果的に、すごく熱意のあるメンバーが集まり、出会いに恵まれたと思います」と語る。開館後も、本社から一方的に指示をするのではなく、現地で地域の方々と接しているメンバーと一緒に知恵を絞り、実現に向け支援することを大切にしたという。「地域との丁寧な対話を企画推進に活かし、高い熱量で実践し続けている現地運営メンバーの皆さんには本当に頭が上がりません」。

コンセプトを体現し、熱量を高め続ける
本プロジェクトにおけるこだわり。それは、当時の鳥取県立博物館 学芸チームと半年ほど意見を出し合いつくり上げた「OPENNESS!」というコンセプトを体現し続けることだと砂川は語る。「作品だけでなく、情報も仕組みも開館準備のプロセスもできる限りオープンに、地域に開かれた美術館にしていく。『OPENNESS!』には、そんな意思が込められており、開館準備期間に何か迷ったときには、コンセプトに近いあり方を判断基準にするようにしていました」。プロジェクトメンバーは、さまざまな仕組みやプロセスにおいても「OPENNESS!」を意識してきたという。その象徴とも言えるのがロゴ・シンボルマークの策定プロセスだ。2021年の入社から一貫して鳥取県立美術館に携わっている稲葉は、当時をこう振り返る。「小学生からプロのデザイナーまで誰でも応募できる形式をとりました。総勢1,726名の応募をいただいた中から1案に決定したのですが、発表会では採用されなかった案も含めてすべて展示したんです。これも、『OPENNESS!』のコンセプトに基づいています」。
稲葉は、ミュージアムショップの立ち上げにおいても中枢を担った。コンセプトづくりからオリジナルグッズの開発、商品の仕入れ、店舗づくりまで、多岐にわたる業務を進めていくためには、地元の企業やつくり手の協力が必要不可欠。事業者向け説明会の開催や、店舗や工房への訪問を通じて、ゼロから関係性を築いていったという。「足しげく鳥取へ通い、因州和紙の工房や民藝の窯元などを訪ねてオリジナル商品の打ち合せをした日々は、個人的にも印象に残っています。鳥取の豊かさや県民の皆さんの温かさに触れると同時に、県立美術館への期待の大きさも感じ、やりがいのある仕事でした」。
一人のメンバーや丹青社単独ではできなかったことが、「みんなでつくる」ことで実現していったと、稲葉は振り返る。「OPENNESS!」の体現は、県やコンソーシアム全体の熱量を高め続けることにつながっていった。
空間づくりから広がる、丹青社の可能性
宮本は、鳥取県立美術館の開館準備期間をあらためて振り返り、こう総括した。「現地常駐メンバーが中心となって、県・コンソーシアム関係者、そして鳥取県民の方々と数えきれないほどのコミュニケーションをとりながら、開館まで文字通り『道なき道』を駆け抜けました。熱意あるメンバーが集まったこと。そして現地と本社、協業パートナーと当社でよいチームができ、相乗効果で力を発揮できたことが、開館してからもプロジェクトに良い影響を与えていると感じています」。
丹青社は今後も、年に1度開催するポップカルチャー企画展の企画・実施を継続的に行っていく。「現地運営メンバーとも連携しながら、皆さまに楽しんでいただける企画展にしていきたいです」と、稲葉は意気込みを語った。丹青社の本業では、施設の空間づくりを行い、事業主に引き渡すまでを支援することが多い。しかし施設運営事業においては、その後の施設の価値を高めていくことに、中長期的に携わっていく。空間づくりから施設運営まで一気通貫で携わることで、丹青社の事業の可能性は大きく広がっていく。




