磯部 孝行(中右)武蔵野大学 工学部 サステナビリティ学科 准教授
建築分野におけるリサイクルおよび環境影響評価(LCA)を専門とし、素材・建材のアップサイクルや、建物・建材のLCAにおける教育活動にも取り組む。
吉原 萌々(右端)武蔵野大学 工学部 サステナビリティ学科
磯部准教授のゼミに所属し、LCAについての研究を行う。
肥尾 廣平(左端)武蔵野大学 工学部 サステナビリティ学科
磯部准教授のゼミに所属し、アップサイクルについての研究を行う。
永井 浩太(中左)株式会社サトー Our100th推進部
創立100周年に向けて、全社的なプロジェクトを行うOur100th推進部のリーダーを担当。社内風土の浸透やサステナビリティの推進まで、幅広いプロジェクトを束ねる。
善野 英恵(中央)株式会社丹青社 マーケティング・サステナビリティ統括部 サステナビリティプロジェクト部 プランニング課担当課長 兼 地域創生支援室長
持続可能な社会の実現のために全社に向けて事業におけるサステナビリティを推進し、助言や取り組みの方向性づくりを行う役割を担う。
まずはプロジェクト発足の経緯について教えてください。
永井
株式会社サトーは、バーコードやRFIDなどの『自動認識技術』を中核に、プリンターやラベルといった製品とソリューションを組み合わせて、現場の課題を85年以上にわたり解決してきました。そうした長い歴史がある一方で、ハンドラベラー(値札やラベルなどを貼る機器)のインキローラー製造時に発生する、軟質ウレタンの廃材の扱いに頭を悩ませていたんです。サステナビリティの取り組みが企業活動として必須になりつつある今、このままでよいのだろうかと。そんなときに、別案件でご一緒していた丹青社さんに思い切って相談させていただきました。廃材の活用などに力を入れていらっしゃることは知っていたので、力になっていただけないかと思いまして。
善野
お話を聞く中で、活用方法を見つけるのはたしかに難しいかもしれないと思ったのを覚えています。軟質ウレタンは柔らかく強度が出にくいことに加え、水や熱に弱く、リサイクルもしにくい。丹青社ではさまざまな廃材を建材として活用してきた経験がありますが、今回の素材は建材には向かないと判断しました。ではどうしたらよいのかと考えたときに、パッと頭に思い浮かんだのが磯部教授でした。磯部准教授は大学院時代の先輩でして、以前お会いした際にサステナビリティ学科の教員をしていると仰っていたことを思い出したんです。素材・建材のアップサイクルに詳しい方に話を聞けば、何か糸口が見えるのではないかと思いました。
磯部
善野さんが仰ったように軟質ウレタンはリサイクルには向いていない素材です。また、今回使用する素材は等間隔で円状にくり抜かれており用途も限られる。そのためご相談をいただいたときは、これは難しいぞ……と思いましたね。元の形を生かすことを前提に、どのようにデザインし、誰に使ってもらうのか考える必要がある。いわゆる、答えのない問いと呼ばれるものです。そのため、サトーさん、丹青社さん、当大学のいずれかに任せきりにせず、お互いの知見を活かしてともに取り組まなければよいアイデアは出てこないだろうと考えました。
善野
固定概念に縛られずに、答えのない問いに挑む。そのためのアプローチとして、磯部准教授の研究室に所属する学生さんに協力を仰ぐことになったんですよね。
磯部
そうですね。また、学生には実際の課題に取り組んでみてほしいという想いもありました。講義の延長線上としてではなく、企業が今何に悩んでいて、どのようなアイデアが必要とされているのかを自分自身で経験してほしい。学生ならではの柔軟な発想によって、まだ世にない価値を生み出してほしいと。そこで募集をかけたところ、ぜひやりたいと手を挙げてくれた吉原さんと肥尾さんを中心にプロジェクトを進めていくことになりました。
どのようにプロジェクトを進めていったのでしょうか。
吉原
軟質ウレタンを扱うのはほぼ初めてだったので、どのような素材なのか調べるところからスタートしました。先行研究などの参考文献を当たるのはもちろん、撫でたり、丸めたり、ねじったりと、自分の手で触ってその性質を確かめることを重視しましたね。
肥尾
その後はアイデアを発散させていきました。ただ、アイデアの良し悪しを測る判断基準が曖昧だったため、善野さんにご協力いただき明確なゴールを決めることにしたんです。
善野
社外の方々に手にとっていただくためのプロダクトにするのか、サトーさん社内で使用するツールにするのか。どちらを目指すかによって注力すべき部分や必要な機能も変わってきます。そのためサトーさんに何度もヒアリングやオフィス視察をさせていただき、期待できる効果やリスクを精査したうえで、社内向けにサステナビリティ意識を高めるためのツールとすることをゴールに見据えました。
永井
当社から出したお題がふわっとしていたため、ゴール設定は非常に苦戦されたと思います。それでもさまざまな方向から質問をいただいたおかげで、当社としても社内の意識改革につながるものをつくりたいという意志を固めることができたんです。特に、年間廃棄量と生産可能数のバランスや、販路開拓のコストといった視点からアドバイスをいただけたことはとても学びになりました。
磯部
ゴールを定めてから改めて議論を重ねる中で、肥尾さんが思いついたアイデアが突破口になりました。それが、穴の開いた部分にビー玉を入れてステンドグラスに見立てるという案。穴を隠す方法ではなく活かす方法を考えたことで、アイデアの幅が一気に広がりました。この発想がきっかけで、サトーさんのエントランスや打ち合わせスペースへの配置を想定したランプシェード『ぽこぽこライト』が生まれたんですよね。素材を活かした素朴なデザインのため、オフィスの雰囲気に馴染むライトにできたのだと思います。
永井
また、吉原さんは社内を移動する際に使えるインナーバッグ『ぽこぽこバッグ』を考案してくださいました。用途によって持ち手や収容量がカスタマイズできるため、それぞれの社員に合った使い方ができる。当社はフリーアドレスで席の移動が多いため、これは社員から喜ばれるのではとワクワクしました。
本プロジェクトを進める中で印象的だったことを教えてください。
吉原
いろいろなアイデアを善野さんをはじめ丹青社の方々が広げてくださったことです。配置イメージや使用イメージなどまで一緒に考えてくださったため、完成したその先を意識しながら進められました。特に、環境に配慮していることを見た目でもわかるようにしたらどうかというアドバイスは印象に残っています。そのアドバイスをいただいたからこそ留め具などの部品も廃材で統一し、ひと目で意図や価値が分かるプロダクトに仕上げることができました。
善野
たしかプロトタイプができた段階で、丹青社のデザイナーたちから意見を募ったんですよね。その結果、材料を減らすために部品の形状を変えるなど中長期的に生産していくことを見越したアイデアが出てきました。目の前の素材をどう活用したら面白いものができるかという吉原さんや肥尾さんの発想と、実際にプロダクトを生み出しているデザイナーの知見を掛け合わせることでプロダクトとしてのクオリティを高めていけたように思います。
肥尾
私は、引き算の大切さを教えていただいたことが印象に残っています。3Dプリンタで『ぽこぽこライト』の部品を制作するにあたり最初は計8つの部品を使う想定で進めていたのですが、せっかくなら3Dプリンタの材料も抑えようアドバイスをいただき、最終的には部品ひとつだけで成立させることができました。
善野
お二人の取り組みを間近で見ていた身としては、利益やこれまでの常識にとらわれず自由にアイデアを出す姿に感心しました。そうした純粋な視点こそが、先が見えない中で道を切りひらくためには必要不可欠なのだと痛感したんです。
永井
分かります。社内に向けた報告会もお二人にお願いしたところ、こちらの意見を踏まえてギリギリまでプレゼン資料をブラッシュアップして素晴らしいプレゼンをしていただきました。お二人がここまで尽力してくれたのだから、責任を持って社内のアップサイクルやリサイクルに対する意識改革を牽引していきたいと強く思いましたね。
磯部
企業と共に実課題の解決に取り組むプロジェクトだったため、二人はいつも以上に気を引き締めて取り組んでくれたのだろうと思います。企業にとっては数ある課題の一つだとしても学生にとっては数少ない実践の場。だからこそ新しいアイデアが生まれやすいのかもしれません。
最後に、本プロジェクトによって得た気づきや今後の展望について教えてください。
永井
廃材の活用先を見つけられただけでなく、報告会では社員から「こんな機能もつけられるのではないか」といった意見が寄せられるなど、予想以上に前のめりな反応が返ってきまして、ゴールに向けて大きく前進できたのではないかと感じています。抽象的な課題に対してさまざまな視点を掛け合わせて取り組めば、社内で進めるよりもはるかに早く、遠くまでたどり着くことができる。そう実感できたのが何よりの収穫だったと思います。今後も共創のノウハウを蓄積し、他部署からも産学連携の相談が来るような部署としてOur100th推進部を成長させていきたいです。
磯部
簡単に答えが見つからない課題に対してともに取り組むことこそが研究のあるべきスタンスだと私は考えているのですが、今回はまさにそれを体現したプロジェクトになったのではないでしょうか。完全な分業にしたり誰かに頼り切ったりせず、ともに悩みながら一人ひとりができることを見つけて全力で取り組む。だからこそ難題をクリアするだけでなく、知識を持った仲間を増やすことができた。つまり、永井さんが仰ったように次につながるプロジェクトにできたのだと思います。永井さんも善野さんも、学生とともに悩んでくださりありがとうございます。
善野
こちらこそです。丹青社は持続可能な社会の実現に向けて環境、人権、地域の発展など多面的にサステナビリティを推進しているのですが、どれも互いに影響し合う複合的なテーマかつ一社で解決できるものではないため、共創が必要不可欠です。今回のプロジェクトを通じて改めてそう痛感しました。そのため今後も丹青社としての取り組みを広げるのはもちろん、この素晴らしいケーススタディを糧に共創を重ね、社会全体でサステナビリティを推進していければと思います。