上垣内 泰輔株式会社丹青社 デザインセンター プリンシパル クリエイティブディレクター
1988年入社後、飲食店の空間設計からキャリアをスタート。ファッションビル、複合商業施設の空間ディレクションや、海外の大型展示会パビリオンなどを手がけたのち、2015年、丹青社品川新本社の設計をディレクション。田園都市線2020系の車両デザインを担当するなど、分野を超えて幅広くチャレンジを続けている。
丹青社がリアル空間の「本質」に携わり続けるために
20年後の丹青社100周年を見据えた特別企画ということで、未来から逆算してお聞きしたいと思います。2046年に、どんなことを実現していたいですか?
その頃には私は定年退職していますから、健康で楽しく暮らせていたら、というのが正直なところです。ですので、自分自身がどうなっていたいかではなく、丹青社にどうあってほしいかという視点で考えてみました。ああでもないこうでもないと頭を悩ませましたが、最終的にたどり着いたのは、20年後も丹青社がリアル空間の「本質」に関わる仕事をしていてほしいという想いです。
ポイントは「リアル空間」という部分。いつでもどこからでもアクセスできる空間ではなく、その時、その場所に足を運ばなければ訪れることができない空間。目的や集合時間を共有し、互いの予定を合わせなければできない体験。それは一見、不便にも思えるかもしれません。しかし、同じものを見て、同じ匂いを嗅ぎ、同じ時間を共有するからこそ立ち上がる感情や気づきがある。これからは平時が常に常態ではないことも加味し、そこにリアル空間の本質があると考えています。では、そうしたリアル空間の本質に関わり続けるとはどういうことか。単に空間をつくることだけを指しているのではありません。リアル空間の本質を追求し続けることや、その価値を更新し続けることだと考えています。これこそが、丹青社の生業の根本だと思うのです。
時代を振り返れば、かつてはハードウェアが、次にソフトウェアが価値を持つ時代が長く続きました。しかしソフトウェアの時代が成熟した今、多くの人がリアルの価値に改めて気づきはじめているのではないでしょうか。例えば最近では、日本の盆踊り文化が海外で流行していると聞いたことがあります。同じ場所に同じ時間に集まり、輪をつくって踊ることに価値が生まれている。リアルの価値が、再発見されているのです。
ただ、これは現時点で私が考えていることであって、20年後のリアルの価値がどうなっているかは分かりません。そこで必要なのは、丹青社で働く一人ひとりが生活者としての精度を高めていくことだと思います。リアル空間は使う人がいなければ意味を持ちませんから、人々が何を求めていて、何に心惹かれるのかを深く理解する必要がある。生活者としての精度を高めるとは、簡単に言えば、いろいろなことに興味を持ち、視野を広げることです。日常のルーティンに閉じこもらず、行ったことのない場所に足を運び、体験を増やす。その積み重ねが、リアル空間の本質を見つけ、更新していく力になるはずです。
一人ひとりがインプットを「置き換え」できる組織でありたい
そうした創業 100 周年に向けた構想を実現するために、それまでの歩みの中でいつどんなことをしていきたいですか?
先ほど生活者としての精度を高めることが重要という話をしましたが、それだけでは個人の努力で終わってしまいます。2046 年時点で、丹青社が組織としてリアル空間の本質に関わり続けるためには、各自のインプットを仕事の中でグループワークに落としこみ、社内で連鎖させていく仕組みが必要です。そこで私は、自分が定年を迎える 2030 年までに、インプットの「置き換え」ができるデザイングループにしていきたいと考えています。
ここで言う「置き換え」とは、普段の生活や仕事の中で出会ったものを、面白かった、勉強になった、で終わらせずに、目の前のプロジェクトに引き寄せて考えることを指します。異分野(例えばファッションや音楽)から感じた変化の兆しの置き換え、他社のデザインから受けた角度の違うアプローチの置き換え、お客様から受けた運営視点とスタンスの置き換えなどを、自分なりに翻訳すること。そして翻訳したことを、さまざまな発起点と方法を通してメンバーに共有すること。これが、私が考える「置き換え」です。
この置き換えを個人レベルではなく組織レベルで行えるようになれば、統合的なグループワークが先鋭的な個の仕事を超えることができるようになります。誰かの置き換えを他の人が受け取り、さらに置き換えるといった連鎖を生むこともできるようになるかもしれない。そのために私自身、置き換えてもらうことを前提に、自分がこれまでやってきたことなどを受け渡していきたいと考えています。
2027 年までに、「我が社を知る」をみんなで楽しむ
丹青社が創業 100 周年を迎える 2047 年、それに向かって上垣内さんが定年を迎える2030 年時点の構想をお聞きしました。さらに直近で取り組みたいことはありますか?
2027 年度までに「我が社を知る」をみんなで楽しむことです。先ほどの「置き換え」を組織単位で回していくための足場として、会社に対する個のリテラシーをもっと上げていかなくてはと。というのも、丹青社は空間づくりだけでなく、その前後の工程や築古不動産の活性化プロジェクトなど新しい取り組みもどんどん進めているため、自分が手がけている領域や職域のことは深く知っていても、その隣の部署が何をやっていて、どんな思想で仕事をしているのかなどを知らない人が多いためです。これは会社の事業領域が大きいが故に、構造として自然に起こってしまうことだと思います。しかし、視野を広げることで「この人がこんなことをやっているなら聞いてみよう」「この領域と組めるかもしれない」と、選択肢が増える。他領域のスキルを身につけろという話ではありません。情報として知っているということが重要なんです。知っているということは、力になりますから。
そこで私は、「我が社を知る」を後押しするために、社内のクローズドメディアで部門や職種を横断したセミナーを行い、新規プロジェクトを紹介したりするなどの活動を続けてきました。SNS よりも一方的ではなく、オープンメディアよりは自由度が高い。ほどよいコミュニティ感があるこの取り組みで伝えていることは、スキル獲得といった直接的な勉強にはならないかもしれないけれど、「うちの会社はこんなこともしている」という認知の幅を広げ、個のリテラシーを育てていくであろうと思います。
もっと多くの社員に聞いてほしいし、何より、「自分たちの会社を知ることはみんなにとってメリットがある」と気づいてもらいたい。だからこそ、いまはデザインセンターだけの取り組みですが、全社へと広げていきたいです。2027 年度までに何らかのかたちで広げていけたらと思っています。どうなるかはまだ分からないですが、宣誓としてここに記しておきます。
今日も、自分自身の生活者としての精度を高めていきたい
それでは最後に。100 周年に向けた構想を実現するために、まずは今日から始めたい、創造の第一歩を教えてください。
先ほど話したように、「我が社を知る」の全社浸透化についてはすでに打診しています。ですので、それ以外で考えると自分自身の生活者としての精度を高めていくことに尽きると思っています。リアル空間の価値は、結局、使う人の感情や身体感覚の中で決まります。何に心惹かれるのか、どんな瞬間に「また来たい」と思うのか。そうした感覚は、どれほど仕事の経験を積んだとしても更新し続けなければすぐに凝り固まってしまうため、まだ行ったことのないリアル空間に意識的に足を運んでみたいです。
ちょうど昨日、予約なんて取れないと思っていた飲食店の予約を運よく取ることができまして。もちろん、行ったからといってすぐに仕事に直結する学びが得られるとは限りませんが、感覚をフル動員させて、生活者としての精度を高めてくる予定です。そうした行動を、今日も何か一つできたらと思います。
ここまでいろいろなことを話してきましたが、20 年後のリアルの価値がどうなっているかは誰にも分かりません。だからこそ、丹青社の一人ひとりが生活者としての感覚を磨き、その感覚を共有するためにも我が社を知り、置き換えを連鎖させていくことが重要です。その循環を回し続けることで、100 周年を迎えたときにも、丹青社がリアル空間の本質に関わる仕事をしていられるはずだと信じています。
本日はありがとうございました!
創業 100 周年に向けた上垣内泰輔の創造ノオト