坂上 祐作株式会社丹青社 文化・交流空間事業部 文化空間統括部 開発1部 1課/課長
2015年に丹青社に入社。文化空間事業部の営業として博物館や科学館を中心とした施設づくりに携わる。計画・設計から施工、開館後の支援まで、営業としてお客さまに近い立場でプロジェクトを推進。近年は文化空間にとどまらず、商業やイベントなどの知見を掛け合わせた、新たな空間のあり方を模索している。
地域の活力の源となる空間を実現させるために、地域の人々と走り抜けたい
20年後の丹青社創業100周年を見据えた特別企画ということで、未来から逆算してお聞きしたいと思います。2046年に、どんなことを実現していたいですか?
自分たちが生まれ育ったまちのことを知れるだけでなく、地域の人々が集い、つながり、まちをもっと面白くしていこうと動き出せる。地域の活力の源となるような「新しいかたちの文化施設」を実現し、地域に根づいていくまで一緒に走り抜けていたいです。私が思う「地域の活力」とは、実際にそこで暮らす人の想いや行動から生まれるもの。その力について考えると、私の中ではいつも「祭り」というキーワードが浮かぶんです。原点にあるのは、地元・茨城県潮来市の祭りですかね。普段は静かな町が、祭りの期間になると大きな熱気に包まれるんですよ。若者たちが中心となって山車を曳き、その姿を見た子どもや大人、お年寄りまでが元気になっていく。僕自身も毎年その祭りに参加するなかで、地元への愛着を深めてきました。
大学時代に携わったフィリピンでの地域支援でも、祭りが人や地域を動かす場面を目にしました。僕はフィリピンにルーツがあり、4年間にわたって小さな村の地域支援に参加していたのですが、活動の一つとして、村の若者たちと祭りのようなイベントを企画したんです。回を重ねるうちに、「次はもっとこうしたい」という意見が彼らの中から生まれ、大人たちも若者の活動を支えるようになりました。最初はこちらから持ちかけた企画でしたが、少しずつ地域の人たち自身が考え、動かすものへ変わっていったんです。潮来とフィリピンどちらでも、祭りを中心に人が集まり、自分たちの町や村に目を向けていく姿は同じでした。私にとって祭りとは、地域の人々の熱が周囲へ広がっていく、「地域の活力」の原風景なのだと思います。
そこで私がつくりたいのは、祭りのように、人と人とのつながりから新しい動きが生まれる空間です。地域の歴史や文化に触れながら、集まった人たちが「このまちでこんなことをしてみたい」と語り合い、実際の活動へ踏み出していく。祭りのなかで生まれる一体感を、数日間だけでなく、日々の暮らしのなかでも育める場所にしたいと思っています。そして、その空間が地域に根づくまで関わり続けたいです。施設のオープンはゴールではなく、地域の人々と一緒に走り始めるスタートですから。場を育てていく主役は地域の人々なので、空間づくりや運営で培ったノウハウを生かし、地域の人々が自分たちの力で走り続けられるよう隣で支えていきたいと考えています。
「走り抜けたい」という言葉を選んだのは、まだ答えのない挑戦にも、自分たちが信じる方向へ進み続けたいと思うからです。やったことのないことには怖さがありますし、失敗することもあるかもしれません。それでも最後まで走り抜ければ、結果として新しい正解をつくれるかもしれない。たとえ失敗しても、その経験は次の挑戦の糧になるはずです。
一緒に走り抜けたいと思われる人・会社になりたい
そうした創業100周年に向けた構想を実現するために、それまでの歩みの中でどんなことをしていきたいですか?
まずは、自分自身が「この人と一緒に走りたい」と思ってもらえる存在になることが大事だと思っています。そのためには、お客さまが言ったことをそのままかたちにするのではなく、どんな空間をつくりたいのか、その先で何を実現したいのかを一緒に考え、必要な人を巻き込みながら前へ進めていけるパートナーになる必要があります。実際に、以前携わったある博物館では、空間をつくって終わりにせず、開館後の広報についてもお客さまと一緒に考えていきました。施設は完成した瞬間がゴールではなく、人々が興味を持ち、足を運んでくれるようになって初めて、その価値が地域の中に広がっていくと思ったからです。当初は社内から、広報業務まで本当に取り組むべきなのか、事業として成立するのかという意見もありました。それでも、空間や展示を手がけた丹青社だからこそ、その展示をどう楽しんでもらうのか、魅力を伝えるためにどんな発信が必要なのかまで、空間づくりとセットで考えられる強みがあると思ったんです。何より大切にしたかったのは、僕たちが発信を代行し続けることではなく、最終的には施設の魅力を一番理解しているお客さま自身が、自分たちらしい方法で発信を続けられるようになることでした。その考えを社内にも伝えながら取り組みを進めた結果、お客さまにも満足していただき、次の仕事にもつながっていきました。
こうした新しい取り組みを進める上では、「仕事だからやる」という気持ちだけでは続かないとも感じています。初めてのことには難しさもありますが、自分たち自身が遊び心を持ち、面白がりながら取り組むことで、周囲にも前向きな空気が伝わっていく。社内のメンバーもお客さまも味方にしながら進めていくには、やるべきことをやり切る責任感と同時に、楽しむ姿勢が必要なのだと思います。だからまずは、自分自身がお客さまと対等なパートナーシップを築き、難しい場面も一緒に面白がりながら、完成後の未来まで考えていく姿をもっと見せていきたいです。その姿勢に共感するデザイナーやプランナー、制作、営業が増えれば、一人の力では実現できない挑戦にも、チームで向き合えるようになる。やがて丹青社という会社そのものが、地域の人々から「この人たちとなら最後まで走り抜けられる」と思ってもらえる存在になっていきたいです。
横断的な領域にチャレンジしていきたい
丹青社が創業100周年を迎える2046年、それに向かうまでの構想をお聞きしました。さらに直近で取り組みたいことはありますか?
これから5年ほどかけて、文化空間にとどまらず、商業空間やイベントなど、さまざまな領域を横断していきたいです。僕は入社以来、博物館や科学館を中心とした文化空間に携わってきましたが、地域の活力の源となる空間を実現するためには、今の自分が持っている経験だけでは足りないと感じています。たとえば、普段はミュージアムを訪れない若者にも足を運んでもらい、日常的に過ごしたくなる場所を考えるには、人を引きつける商業空間の発想やノウハウを学ぶ必要があります。地域の人々が参加し、新しいつながりや活動を生み出していくためには、イベントの企画や運営から得られる知見も欠かせません。特に営業は、お客さまが実現したいことを最初に受け取り、デザイナーやプランナーをはじめとする社内外の人をつなぎながら、プロジェクトの進む方向を考える立場です。自分の知っている領域が限られていれば、提案できる選択肢も狭くなってしまう。だからこそ、文化空間で培ってきた経験を軸にしながら、これまで関わる機会の少なかった領域へ踏み出し、営業としての視野や引き出しを広げていきたいと思っています。
ただ、商業空間やイベントを経験し、学んだ要素をそのまま文化施設に持ち込めばよいわけではありません。文化空間には地域の歴史や文化を伝える役割があり、商業空間には人を引きつけ、滞在したくなる体験をつくる役割がある。それぞれが持つ価値や視点を深く理解したうえで、お客さまが描く未来や地域の特性に合わせて組み合わせ、新しい空間のあり方へと昇華させていくことが大切です。そのため、どの領域の力が必要なのかを見極め、ふさわしい人を巻き込みながら全体を前へ進められる営業になりたいです。
馬鹿馬鹿しくも、素直に、語らう
それでは最後に。100周年に向けた構想を実現するために、まずは今日から始めたい、創造の第一歩を教えてください。
まずは、後輩と飲みに行きたいです。今回の取材を通して、なぜこの仕事を選び、どんな空間をつくりたいと考えてきたのかを改めて振り返ることができました。目の前の仕事に追われていると、仕事を通じて実現したいことを言葉にする機会はなかなかありません。後輩から見ると、僕はいつも忙しく大変そうに映っているかもしれない。でも、本当はちゃんと仕事を楽しんでいるし、地域の人々と一緒に新しい空間をつくりたいという想いも持ち続けています。改まった場で語ると少し暑苦しくなってしまうので、飲みながら「僕はこんなことをやりたいんだよ」と、砕けた感じで話してみたいです。同時に、後輩がどんな仕事をしてみたいのか、何を楽しいと感じるのかも聞いてみたいと思っています。
実現できるか、採算が合うか、誰が担当するのか。仕事を進める上では、そうした現実的な条件を考えなければなりません。ただ、最初から条件ばかりを並べてしまうと、自由な発想が生まれる余地までなくなってしまいます。馬鹿馬鹿しくても、すぐには実現できなくても、まずは素直に口にしてみる。そんな会話が遊び心や心の余白を生み、次の挑戦へ踏み出す力になるのだと思います。そのため、何でもできるすごい先輩として遠くから見られるより、自分自身が楽しみながら、お客さまや仲間を巻き込み、信じた方向へ走っている姿を近くで見せていきたいですし、その姿から後輩たちにも自分なりの目標を見つけてほしいです。まずは一緒に飲みながら、未来の話を馬鹿馬鹿しく、素直に語らうことから始めたいと思います。
本日はありがとうございました!
創業 100 周年に向けた坂上 祐作の創造ノオト