大野 新五(中右)独立行政法人都市再生機構 東日本都市再生本部 事業企画部 担当課長・密集市街地整備部 部付
東京都内における木造密集市街地のまちづくりなど、都市再生・まちづくりの分野でさまざまなプロジェクトを推進。「わざわざ空き地プロジェクト」においては、企画から事業化までプロジェクトの中枢に携わる。
田中 真宏(中左)NPO法人ピープルデザイン研究所 代表理事
2012年、渋谷発でダイバーシティのまちづくり活動を行う同NPOの立ち上げメンバー。2021年に代表理事に就任。全国各地で障がいのある方をはじめとするマイノリティとマジョリティが混ざりあうさまざまなプロジェクトやイベントを手がける。
岡部 修三(右端)upsetters architects Founder / CCO
2004年にupsetters architectsを立ち上げ、建築的思考による環境デザインとストラテジデザインによって、社会に何をもたらせるかを考え実践し続けている。
益留 亜弥(左端)upsetters architects Chief Architect
upsetters architectsのチーフアーキテクトとして、主に建築やインテリアの設計を手がける。本取り組みにおいて、空き地活用の企画、防災PODの設計などを担当。
江連 舞果(中央)株式会社丹青社 商空間事業部 CMS統括部 開発・CM部 開発室 室長
大型商業施設を中心に、営業として数々の空間づくりに携わる。丹青社内のサステナビリティに関する取り組みを発信するチームでの経験を活かし、領域を広げながら持続可能な空間づくりを実践中。
まずは本取り組みについて教えてください。
大野
独立行政法人都市再生機構(以下、UR都市機構)は阪神淡路大震災以前から、密集市街地における災害時の延焼防止や避難経路の確保のための道路整備といった防災まちづくりに取り組んできました。その中で痛感したのは、住民の方の合意を得ることの難しさ。日常生活がある中で災害を身近なものと捉えて行動するのは、やはり難しいんですね。防災性を上げるボトムアップの取り組みと日常生活の質を上げるバリューアップの取り組みを、両輪で提案していく必要があるんです。
また、UR都市機構では「木密エリア不燃化促進事業」という密集市街地で機動的に土地(不燃化促進用地)を取得し、不燃化に資する土地活用を行っています。これらの土地(空き地)を使って、地域防災力を高めつつ日常生活も豊かにする小さな拠点にできないかと考えていました。これまでの長年の経験や保有地を活かし、ピープルデザイン研究所さんと共に始めた取り組みが「わざわざ空き地プロジェクト」です。住宅が密集するエリアに“わざわざ”空き地をつくることで不燃化を促進し、そこに暮らす方々の声を集めて暮らしをよくするための実証実験を進めています。
田中
ピープルデザイン研究所としては、障がい者をはじめとするマイノリティや福祉そのものに対する「心のバリア」を取り除くためのイベント『超福祉展』を、2014年から2020年まで渋谷で開催してきました。このイベントは丹青社さんやupsettersさんと共に創り上げてきました。超福祉展では世の中に一定の影響を与えることができたと感じていたのですが、同時に打ち上げ花火的なイベントだけでは限られた人々の意識や行動しか変えられないことも痛感していました。限定的ではなく、日常からの意識や行動変容を起こしていきたいと考えていたときにUR都市機構さんが取り組みの公募を募っており、そこに手を挙げたことが私たちが参画することになったきっかけです。
大野
多様化する現代社会では、地域の最大公約数的なニーズだけでなく、災害時に弱者になりうる方々の声もしっかりと拾うことが大切だと考えています。だからこそ、ピープルデザイン研究所さんの想いや経験があれば取り組みを発展させることができると思い、パートナーになっていただきました。
岡部
大多数の声を拾うだけでは解決できないことが、まちの中にはたくさんありますよね。そういったいわゆる小さな声をきちんと拾って取り組み化している事例は世界的にも少ないと思います。そうした小さな声を少しでも拾えるように、「防災POD」としての機能はもちろん、平常時の空間活用も可能なシェア倉庫のテスト制作と実証実験を行うにことになり、以前よりお付き合いのあった丹青社さんにお声掛けをさせていただきました。
江連
岡部さんの仰るとおり、この取り組みはとても先進的ですし、丹青社としても非常に珍しいタイプの案件です。私たちの担当は「防災POD」の施工でしたが、設計段階から実現のための技術的な監修でもサポートさせていただきました。制作のメンバーにも取り組みの意義に共感してもらうところからスタートし、皆さんと同じ気持ちで臨むことをすごく意識していました。
「防災POD」の実証実験に取り組むことになった背景を教えてください。
田中
この空き地を活用した実証実験は2022年から始まりました。まずは空地を地域の方々に開き、集まった方々に「まちの好きなところは?」「この空き地でやりたいことは?」といったことをとにかく聞いて回って、小さなニーズを拾い集めていくところからスタートしたんです。集まった意見を次のイベントで実現し、そこでまた声を聞いて……と言うことを何度か繰り返していきました。その中で見えてきたのが、野菜や花を育てたいとか、バーベキューをしたい、プールがほしいといったスペースに対するニーズでした。やりたいけど、場所がないと。そこで、日常時にも災害時にも機能する土地活用の取り組みとして、地域に開かれた菜園コミュニティの運営を始めました。
大野
菜園活動にもイベントにも道具が必要なので、コンテナのようなものを設置しようというところから、「防災POD」の構想がスタートしました。ここでも、ただ箱を置くのではなく、何が必要か、何があったら暮らしが豊かになるか、地域の声を集めてカタチにしていきました。
岡部
「防災POD」は一つ制作して終わりではなく、ほかの空き地にも展開できるインフラ的な側面が必要不可欠だと考えていました。そうなると、工場で作ったものを運び込むだけで設置が完了する仕様は一つの条件になるのですが、この規模の展開を見据えた対応ができる企業は多くありません。そこで、丹青社さんなら取り組みのポテンシャルへの理解と、展開への対応が可能だと思い相談をはじめました。
江連
丹青社としてもサステナビリティや地域貢献の取り組みが増えてきていた中で、私自身も社内のサステナビリティ推進を担当する立場だったこともあり、ぜひ挑戦したいという思いがありました。
益留
今回の取り組みにおいて、どのように制作し、設置する方法が良いかというところから考える必要があり、予算や納期といった制約もある中で、丹青社さんは意匠的に大切にしたい部分も擦り合わせながら進めてくださったので、すごく安心感がありました。最終的には、基礎を除いた本体部分は、設置も移動もクレーンで運ぶだけで運用できるかたちに着地させることができ、取り組みを検証するのに相応しいものに仕上がったと思います。
江連
まずはこの空き地の存在意義を伺い、「防災POD」の完成イメージやどんな使われ方を想定されているか共有いただいた上で、社内で議論を重ねていきました。安全面や恒久性を考えると課題も出てきましたが、施工担当はもちろん、協力会社にも高い視座で参加いただき、実現のための提案ができたのは良かったと思います。デザイン的に大切にしたい部分や運用面で柔軟性を持たせられる部分を益留さんと一緒に擦り合わせて完成形をつくっていきました。
「防災POD」について、特にこだわったポイントはありますか?
益留
普段目にする防災倉庫は、基本的に中に何が入っているか外からは分からない仕様のものが多いと思いますが、今回の防災PODでは中が見える仕様にしたところです。日常的なシェア倉庫でありながら防災倉庫でもある「防災POD」にとっては重要な検討ポイントでした。
岡部
地域住民の方々と対話する中で、既存の防災倉庫には「そもそも使い方がわからない」「町内会の誰が鍵を持っているのか知らない」といった課題があることわかってきました。日常的に興味を持ってもらい、使ってもらえるものではないと、肝心の災害時に役に立たないわけです。だからこそ、ぱっと見で興味を持ってもらえるような佇まいを目指しました。
大野
私のこだわりとしては、ソーラーパネルですね。これは計画当初からマストだと思っていました。低層住宅が多い中で環境問題への取り組みはとても大切で、ソーラーパネルが日常的に目に入るだけで環境意識の醸成につながると考えています。イベント時や災害時には電源としても使うこともできますし。
田中
個人的に思っているのは、地域で一番開けられる扉であり、災害時には一番早く開けることができる扉であってほしいという想いです。だからこそ、汎用性と変容性を兼ね備えたものにしていきたいと考えています。
江連
丹青社としてのこだわりは、安心安全な品質はもちろんですが、皆さまのさまざまな想いが込められた「防災POD」をきちんと実現すること。これに尽きます。その上で、全員が自分ごとに捉えられるテーマだからこそ、いつも以上に利用者目線を意識して取り組めたように思いますね。今日あらためて実物を見て、使う人々に愛着を持っていただけるような防災倉庫になったなと感じました。それは皆さんと一緒に細かいディティールの検証を積み重ねた結果だと思っていて、協業できて本当によかったです。
最後に、それぞれのお立場から今後の展望をお聞かせください。
大野
日本の土地は立地と利便性でほとんどの価値が決まってしまいますが、これからの社会では住みやすさや安全性といった価値基準が重要になっていくと思います。むしろ、そういった付加価値がないと、人口の減少が進む中で選ばれる街になっていけない。だからこそ目指すべくは、まちの価値向上につながる空き地をつくること。分散した小さな土地だからこその特徴を活かし、さまざまなパートナーと連携しながら、事業として成長させていきたいですね。
岡部
空き地のように、公共と民間の間に位置付けられる可能性のある存在に目を向け、活かしていきたいと思っています。この取り組みは、その第一歩です。これからも地域における新しい価値づくりとそれを下支えする防災のアプローチを探っていきたいですね。
田中
私たちピープルデザイン研究所は、障がいのある方をはじめとする社会的マイノリティの方々が、地域で活躍する日常を実現したいと思っています。この取り組みが全国のモデルケースになり、地域のさまざまな方のコミュニティの基礎となり、多様性に寛容な社会を実現する一助になっていったらいいなと思っています。
益留
先ほど田中さんが話していた「『防災POD』を地域で一番開けられる扉にしていきたい」という思いには私もすごく共感しています。まちとの接点を増やし、広げていきながら、さまざまな活用方法を模索して提案していきたいです。
江連
人が集まり賑わう空間づくりを本業としている丹青社として、この取り組みに参画できたことで得られる学びがたくさんありました。ふだん私たちが接しているお客さまの中にも、防災や地域とのつながりを重要に感じている方は多いです。こういった案件に一緒にチャレンジできる仲間をもっと増やしていきたいと思いますし、空間を通して社会の課題解決に貢献できるような新しい価値を提案していくべきだと強く感じています。
本日はありがとうございました!