深い人間関係とこだわりが生んだ、伝統と革新のニコンミュージアム
2024年10月、株式会社ニコンが運営する「ニコンミュージアム」がオフィス移転に伴い西大井にリニューアルオープン。「日本一の企業ミュージアムへ」という目標を掲げる同施設には、どのようなこだわりが詰まっているのか。想いを具現化するという目的に向かって育まれた人間関係とは。プロジェクトの統括を務めた中島さまと、丹青社制作職の安部・原の3名が語ります。
中島 良允様(右)
株式会社ニコン 経営戦略本部 広報部 ニコンミュージアム館長
2008年ニコン入社。新規事業開発やコーポレートブランディングに携わる部署を経て、ニコン創立100周年プロジェクトに参画。ニコンミュージアムのリニューアルプロジェクトでは全体統括を務めた。
安部 智也(左)
株式会社丹青社 文化・交流空間事業部 第2制作統括部 制作1部 3課
2015年丹青社入社。ブランドショップやホテルのFFE、企業オフィスなどの制作管理を担当。
原 萌子(中)
事株式会社丹青社 文化・交流空間事業部 第2制作統括部 制作1部 3課
住宅メーカーを経て、2023年株式会社丹青ヒューマネットに入社。以降プロジェクトの推進補佐を務めている。
【1】「伝統と革新を体感するミュージアム」を具現化するために

中島 ニコンミュージアムの開業は2015年。ニコン創立100周年プロジェクトの一環として、当時港区港南にあった本社併設でオープンしました。そして2024年、創業の翌年から工場を構えていた当社ゆかりの地である西大井への本社移転に伴い、ニコンミュージアムもリニューアルオープン。ニコンの伝統と革新を体感する場として再スタートを切りました。
安部 丹青社としては入札段階でご提案に参加させていただきました。本プロジェクトでは施工を担当させていただき、ニコンさんの要望をいかに具現化するかという点に振り切ったご提案をさせていただきました。
中島 安部さんのお話の通り、丹青社さんは私たちの要望を本当にしっかり汲み取ってくれていて、とても信頼感がありました。私としては、旧ミュージアムを単に移設するのではなく、新しいミュージアムとして文字通りリニューアルしないといけないと考えていました。とはいえ、空間づくりに関しては素人なので、イメージをどう具現化すればいいのかわからない。その点を、丹青社さんが丁寧にフォローしてくださり、完成に向けた期待が一気に高まりましたね。
原 実際にプロジェクトが始まると、ミュージアムの方々が一つひとつの展示品に対してとても強い想いを持っていることが肌で感じられました。展示品を移動したり展示したりする際にも、精密機械だから注意して取り扱おうという以上に、皆さまの宝物だから大切にしよう、綺麗に見せようという気持ちの方が大きかったです。
中島 現場を統括した担当者も、「カメラを美しく機能的に見せるために角度を1度ずつ調整してくれた」「ビス一つ打つ場所にもこだわってくれた」と、原さんをはじめ丹青社さんの皆さんが期待以上に寄り添ってくださったことに、とても感激していました。
原 付属品を含めたら2,000点以上の展示品を間違いなく安全に運び、正しい場所に美しく展示するという作業は、一人では絶対にできない作業です。ミュージアムの皆さんがパートナーとして一緒に考え、意見を出し合ってくれたことで完遂できたと思います。
【2】想いを伝えるために、細部にもこだわり抜いた展示空間

中島 現場に関することは原さんに、プロジェクト全体に対することは安部さんにというように、役割が明確だったからこそ進行もスムーズだったように思います。大きなプロジェクトを進めていると、どうしても不安になる瞬間があると思うのですが、安部さんからは「絶対に皆さんを不安にさせない」という姿勢を感じました。初めてミュージアムのリニューアルに携わる中で、その安心感があったことはすごく大きかったです。
安部 ありがとうございます。私としても、中島さんが決めなければいけないことをしっかり意思決定してくださったので、安心感がありましたね。あとはつくるだけ、という気持ちでプロジェクトの推進に専念できました。
原 担当の方から「取引先だけど仲間だと思っている」と言っていただけた時は本当に嬉しかったですね。この人たちのために頑張ろうと心から思いました。特にこだわったテーマ展示のコーナーでは、ニコンさんとして伝えたいことを表現するために、試行錯誤を何度も一緒に繰り返して。最終的には、カメラを固定する治具を一台ずつすべてオリジナルで制作するところまでこだわることができました。
中島 半導体や測量機など、BtoB領域の製品を展示する「インダストリーゾーン」にもこだわりが詰まっています。多くの人にとって、やはりニコン=カメラ。でも実は、カメラを扱うようになったのは1948年からで、BtoB領域での取り組みの方がさらに長い歴史を持っています。しかし、そのまま展示しても一般の方には魅力が伝わらない。そこで、その製品/技術ができることを「みる」「うつす」「はかる」「つくる」という4つの動詞で分類し、ニコンのアイデンティティを直感的に感じていただけるように工夫しました。
安部 展示品の魅力が最大限伝わるよう、展示品の角度や展示方法はもちろん、展示台の高さや大きさ、床や壁の塗装、その繋ぎ目まで一切の違和感がないように仕上げています。
「ニコンの技術のシンボル」である合成石英ガラスインゴットを中心に、半導体、エレクトロニクス、自動車などの産業分野をはじめ、ヘルスケア分野や学術分野など、さまざまな業界の発展に貢献する製品と技術を展示するインダストリーゾーン
ニコンⅠ型から始まる歴代のカメラやレンズはもちろん、報道や宇宙開発など、幅広い分野で活躍するニコン製品を紹介している。創業初期から製造し続けている双眼鏡や、眼鏡も 展示するコンシューマーゾーン
140インチの大型スクリーンでニコンミュージアムのオリジナル映像を放映したり、企画展などの各種イベントも開催できるシアターゾーン
ミュージアムショップを併設し、来館の記念となるオリジナルグッズを販売しているエントランス
【3】日本一の企業ミュージアムを目指して
中島 プロジェクトが発足した際に「企業ミュージアムでナンバーワンになる」という目標を立てました。その達成のために、お客さまそれぞれに何を感じてほしいのかを具体的に設定しています。カメラファンの方々には「愛着」、お取引先の方々には「信頼と期待」、地域にお住まいの方やニコンをあまりご存じない方には「発見」、そして社員には「誇り」を感じてもらいたい。これが達成できれば、日本一の企業ミュージアムになれると信じています。
原 誰に頼んでも同じではなく、「原さんに頼んでよかった」と思っていただけるように意識してきたので、ミュージアムの方と信頼関係を築くことができたこのプロジェクトは忘れられない経験になりました。これからも期待以上のものを生み出せるように、腕を上げていきたいです。
安部 ニコンさんがこれからもっと進化していく中で、新たな「伝統と革新」がこのミュージアムに刻まれる際、その想いを具現化できるように私たちも成長していきたいと思います。
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