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地域とともに、未来へひらかれた美術館へ。鳥取県立美術館スペシャルインタビュー Vol.2 現地運営編

インタビュー

2025年3月にオープンした鳥取県立美術館は、鳥取県内初の県立美術館であり、公立美術館の新設・設計から運営までのPFI事業(※1)としては全国初であることから、大きな注目を集めています。丹青社は、各領域のプロフェッショナル10社で構成されるコンソーシアムの一員として、展示収蔵環境づくりのほか、開館準備、広報・ブランディング、集客促進、学芸業務、飲食物販事業などを含む運営事業にも幅広く携わっています。本記事では、スペシャルインタビュー Vol.2として、現地運営メンバーの4名に話を聞きました。

鳥取県立美術館スペシャルインタビュー Vol.1 運営プロデュース編はこちら

※1 PFI:Private-Finance-Initiative(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)。国や地方公共団体等が公共施設等の設計・建設・改修・更新や維持管理・運営を民間資金や経営・技術的能力を活用して行う事業手法。

SPEAKER

石山 彩
(右)
運営担当サブマネージャー
神奈川県出身。東京都内のミュージアムで勤務した後、鳥取県立美術館の開業メンバーとして参画、鳥取県に移住。本社と連携して業務を推進し、事業パートナーや地域の方々との信頼関係を丁寧に構築している。

平尾 智
(中右)
運営・展示企画担当
大阪府出身。東京のアートギャラリーに勤務し、開発事業や芸術祭などさまざまなアートプロジェクトに携わってきた。2023年1月から鳥取県立美術館の開館準備に関わり、ポップカルチャー展の企画プロデュースや県主催展のサポートなど学芸業務を担う。

龍門 さくら
(中左)
運営・展示企画担当
広島県出身。アートマネジメント系企業や鳥取県内の企業での勤務経験もあり、移住を検討しているタイミングで現ポジションの立上げメンバーを募集していることを知り、応募。主に企画展の進行管理や展示制作などの学芸業務を担う。

山本 恵美子
(左)
広報担当
香川県出身。結婚を機に鳥取に移住した際にスタッフの募集をしていることを知り、応募。学芸員や企業広報、デザイナーとしての経験を活かし、現在は広報担当として鳥取県立美術館の魅力発信に取り組んでいる。

まずは、皆さんが携わっている業務と取り組みについて教えてください。

平尾

一般的に学芸業務といえば、専門研究の中で美術品を後世に残していくために収蔵・調査・研究し、展示をする仕事です。しかし、鳥取県立美術館が扱っているのは鳥取県が所有している美術品のため、私たち民間企業のスタッフが直接触れることはできません。だからこそ、展示テーマを都度設定してキュレーションし、「ハードルが高い」「どう楽しんだらいいのかわからない」と思われがちな美術の裾野を広げ、さまざまな視点からその魅力を伝えていくことが私たちの仕事だと思っています。特に鳥取県は多くの著名漫画家の出身地であることから、漫画を観光産業の一つにしています。そこで、この夏は『水木しげるの妖怪 百鬼夜行展 ~お化けたちはこうして生まれた~』という企画展を実施しました。見るだけでなく体験を通して作品世界を楽しめるように、妖怪をテーマとしたさまざまな関連プログラムを企画しました。

 

龍門

私も平尾さんと同じく、運営・展示企画担当として鳥取県立美術館に勤めています。代表的な業務としては、展示作品を入れ替える際の進行管理などが挙げられますが、企画展の展示物制作や会場準備、ワークショップの企画・開催、図録制作など、仕事はかなり多岐に渡りますね。今年の春は、夏の企画展『水木しげるの妖怪 百鬼夜行展〜お化けたちはこうして生まれた〜』に先立ち、美術家・高橋匡太氏によるアートプロジェクト『雲の故郷へ』を開催。妖怪の棲家をテーマに、雲の形をした風船を片手に妖怪を探して散歩する『雲の遠足』というワークショップを行いました。

山本

私の役割は、広報として鳥取県立美術館のことを外部の人に広く知ってもらうこと。テレビや新聞などの取材対応、SNS運用、広告出稿、展覧会のチラシやポスター制作、広報誌の発行などさまざまな方法で、鳥取県立美術館の幅広い魅力を継続的に発信しています。鳥取県は地元密着メディアの影響力が強いという特徴があり、取り上げていただいた際にはたくさんの方から反響をいただきます。

石山

私は鳥取県立美術館の運営を統括するポジションとして、さまざまな業務に横断的に関わっています。美術館全体の運営計画を立てて、業務を細分化。メンバーそれぞれの経験や特性を加味しながら仕事を割り振っていきます。さまざまな人が運営に関わっているので、業務に関する経緯や方針などを丁寧に共有するように心がけています。

印象に残っている仕事やエピソードはありますか?

 

石山

私は開館1年前に開催した『どんどこ!巨大紙相撲〜とっとりけんび場所〜』が印象に残っています。美術家KOSUGE1-16によるアートプロジェクトで、巡業として県内5か所にワークショップ会場を設け、県民の皆さん自身が段ボールで個性あふれる等身大の巨大な力士を32体つくりました。最終日の本場所では、美術館の近くにあるホールで32体を集めて取組を行いました。幼児からシニア世代まで多くの方にお集まりいただき、運営にも地域住民の方がボランティアスタッフとして参加してくださったり、県内の企業さまが協賛してくださったりと、地元の方々にご協力いただいたおかげでとても良いイベントになりました。当日は鳥取城北高校相撲部によるデモンストレーションや、プロのアナウンサーによる実況解説なども加わり、大相撲さながらの盛り上がりを見せました。

龍門

私が最も印象に残っているのは、着任後最初に任せていただいた、開館半年前カウントダウンイベントの仕事。なんと、地元の子どもたちによる和太鼓チームと一緒に、イベント開催中の館内を練り歩く先導役でした(笑)。鳥取県立美術館では、幅広い年齢層の方が同じ空間で美術やイベントを楽しんでいることがよくあります。このイベントの際も、演奏で会場に一体感が生まれ、子どもたちが楽器を演奏している様子を老人会の方が楽しそうに見守っていたのが印象的で。ほかの美術館ではあまり見ることのない、少し変わった光景だなと思いますね。

山本

本当に色々な世代の方がいらっしゃいますよね。先日、現代アートを鑑賞している高齢のお客さまを見かけました。鳥取県立美術館ができなければ、出会うことのなかったかもしれないゲルハルト・リヒターの作品を、興味深そうに熱心に見ている。その横で、子どもたちが楽しそうに対話鑑賞をしている。現代アートの展示室がお年寄りたちでいっぱいになっている光景は、とてもシュールだったのですが、同時に微笑ましくもありました。たくさんのお年寄りと子どもたちが集う展示室の光景は、ほかの美術館ではなかなか見られないかもしれない!と驚く一方で、この美術館ならではの可能性を感じました。

平尾

開館するまでは、どれくらい人が集まるか、どんな反響があるのか、不安な気持ちがありました。しかしオープンしてみると、子どもからお年寄りの方まで、さまざまな来場者の方にフランクに声をかけていただくことが多く、地域との距離が縮まったように感じて安心しました。オープンを楽しみに待っていてくれていた方々のために、日々の仕事を積み重ねて、関わりを作っていきたいなと思います。

最後に、鳥取県立美術館を盛り上げていく上での展望を教えてください。

平尾

誰にでもひらかれた空間だからこそ、作品の鑑賞だけでなく、たくさんの方に活用していただけるような場所になればいいなと思っています。この空間を活用して作品をつくりたいと思っている作家さんや、地域の方々を巻き込んだイベントを開催したいと思っている事業者さんは多いはず。『からっぽの美術館をあそびつくそう!』のように、今夏以降も「OPENNESS!」な企画をたくさん考えていきたいですね。

龍門

学校行事で来館した子がこの場所を気に入ってくれて、すぐに両親や祖父母を連れて遊びに来てくれたことがありました。この子のように、私たちの考え方や在りたい姿に共感してくださった方々を介してどんどんひらかれた場所になっていっている感覚があります。関わる人がどんどん観光大使になっていく感じです(笑)。

山本

どの美術館にもフリースペースはありますが、鳥取県立美術館のフリースペースは少し雰囲気が違っていて、地域の方にとって、まるで公園のような憩いの場所になりつつあります。近所のご高齢の方がいつも同じ場所に座ってお話をしていたり、お子さま連れの方がキッズスペースを目当てにふらっと遊びに来てくださったりと、いつでも気軽に立ち寄れる空間として親しんでいただいています。

石山

都会と鳥取県では、美術に触れる機会にどうしても差が生まれてしまいます。そのため、 都会と同じやり方や見せ方では地域の方に響かないし、理解や共感を得られない。だからこそ、まずは美術に対するハードルを下げつつ、でもちゃんと美術に触れられる。この微妙なさじ加減を意識して鳥取県立美術館全体をコーディネートしていきたいと思っています。今は開館間もないこともあり、一目見てみようとたくさんの方が足を運んでくださっていますが、今後も多くの人が訪れたくなる美術館であり続けられるように、さまざまな取り組みを推進していきたいです。

施設情報

鳥取県立美術館

所在地:鳥取県倉吉市駄経寺町2-3-12
開館時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日、年末年始(12月29日~翌年1月3日)ほか
※月曜日が祝日の場合は翌平日を休館日とします。休館日は変更となる場合があります。
ウェブサイト:https://tottori-moa.jp

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