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その店にしかない価値をどう生むか?治一郎×マルニ木工×丹青社の共創による店舗デザインの新しいカタチ

インタビュー

2025年3月、「治一郎ミナモア広島店」がオープンしました。ヤタローさまが展開する治一郎ブランドが広島県に初出店するにあたり、同県に本社を構え、約100年を誇る木工家具メーカーであるマルニ木工さまをパートナーに加えて地域の魅力や特徴を活かした店舗づくりを行いました。本記事では、治一郎ブランドを担当するヤタローの石原さま・マルニ木工の斉藤さま・丹青社の鶴岡による鼎談形式で、店舗に込められた想いやこだわりを語ります!

SPEAKER

石原 幸ニ(右)株式会社ヤタロー
ヤタローグループ統括本部 執行役員 治一郎事業部 統括マネージャー
これまでに塗装業や飲食店など幅広い業界・業種を経験し、ヤタロー入社。ベーカリーやスイーツの販売等に携わる。
治一郎ブランドの立ち上げ後は、全国店舗の立ち上げに携わる。幼少期からの夢はおもちゃ屋をつくること。

斉藤 順(中)株式会社マルニ木工
取締役 購買本部 部長
祖父・父と三代にわたってマルニ木工に勤め、幼少期から同社の社員に囲まれて育つ。現在は購買本部で生産管理や資材の調達に従事。
本プロジェクトでは、鶴岡のデザインを技術的側面から検証した上で美しい木の曲線が特徴の什器を作り上げ、「治一郎ミナモア広島店」らしい店舗空間の実現に尽力。

鶴岡 信人(左)株式会社丹青社
デザインセンター クリエイティブディレクター
2018年から治一郎の全国各地への出店を継続的にサポート。常に挑戦を続けるブランドの姿勢を店舗ごとに異なる設計・デザインで体現している。
環境・目的・課題から空間の本質について考え、常に生活者の視点を大切にすることがモットー。

治一郎のチャレンジ精神を表現する店舗デザイン

鶴岡

丹青社と治一郎さんの関係がスタートしたのは2018年。当時は店舗の施工に携わらせていただき、翌2019年より私がデザイン・設計にも携わらせていただくことになりました。
最初にデザインをする際、「地域に根付いたデザインをすること」を統一コンセプトとして店舗展開をしてみてはどうかと提案をさせていただき、採用していただきました。
これまで、全店舗ゼロからコンセプトを基に地域に根付いたデザインを提案、採用していただいています。

石原

治一郎はチャレンジを大切にするブランドです。
看板商品である『治一郎のバウムクーヘン』はこれまでに何度も味わいのアップデートを重ねていますし、季節ごとの限定商品も同じものはつくらないというポリシーがあります。
そういった姿勢を店舗空間でも体現したいと考え、あえて同じデザインで統一するのではなく、店舗ごとに異なるデザインを採用しているんです。

鶴岡

ただ無作為にバラバラのデザインにするのではなく、治一郎さんがその土地に出店する意味をしっかり紐解いた上でデザインするように心がけています。
治一郎ミナモア広島店においても、訪れるお客さまやここで働くスタッフの皆さんに愛される店舗にするためにはどのようなデザインがよいかを第一に考えました。
そこで辿り着いたのが、広島の地で熱意をもってものづくりに取り組む企業とのコラボレーションです。
家具づくりを生業にしている企業という点から空間との親和性の高さを感じ、必ず良い化学反応が生まれると信じていました。

石原

「治一郎 meets マルニ木工」というコンセプトをご提案いただいたときは、自分の中にまったくなかったアイデアですごくいいなと思いました。
これまでの鶴岡さんのご提案に対する信頼感もありましたし、方向性はすぐに決まりましたね。

斉藤

丹青社さんとは初めてのお付き合いで、こういった形で店舗の什器づくりに携わるのも初めてだったので、お声かけいただけたことは素直に嬉しかったですね。

マルニ木工の技術とこだわりが詰まった、思わず「触りたくなる」什器

 

鶴岡

方向性が決まってからマルニ木工さんにデザインの素案をお見せして、コスト面や技術面でアドバイスをいただきました。
その上で工場にお伺いし、マルニ木工さんが持つものづくりの哲学をインプットさせていただきながらデザインをブラッシュアップしていきました。
こういった進め方は丹青社としてはレアケースでしたが、すごく刺激になりましたね。
実際に工場へ足を運ぶことで、技術者の方々の熱量や木へのこだわりを肌で感じることができましたし、それをデザインで表現することを強く意識するようになりました。

斉藤

私たちとして注力したのは、第一にデザイナーである鶴岡さんの意図を忠実に実現すること。
自分たちが作りやすいように作るのは簡単ですが、そういう道は選ばない。これはマルニ木工が最も大切にしているスタンスです。
その上で特にこだわったのが、思わず「触りたくなる」ような木の曲線です。

石原

「触りたくなるような什器」という考え方はすごく共感しましたね。
治一郎ブランドは“一歩先の美味しさ”という価値観を大切にしていて、五感のすべてを通じて「心」で感じる美味しさを追求しています。
そのフィロソフィーとも共鳴するところがあり、とてもワクワクしました。

斉藤

木は、そのままの状態だと触り心地は決して良くありません。
広島の方言では「すいばりが立つ」と言うのですが、ざらざらしたとげが刺さるような状態の木は、むしろ触りたくないと思います。
それを切ったり磨いたりすることで初めて「触りたい」と思える仕上がりになるんです。
さらに言うと、少し専門的な話になりますが、今回のデザインは単一R(曲線)ではなく複数のRが繋がってできています。
ですので、機械で加工するだけだとRの交点に凹凸ができてしまう。そこを手作業で研磨することで「触りたくなる」なめらかな曲線に仕上げています。
マルニ木工としての技術とこだわりが詰まったポイントです。

機械加工でプログラムした形に加工を行う

機械では除去しきれない交点の凹凸を職人の手作業で丁寧に研磨することでなめらかな仕上がりに

鶴岡

機械で削り出した状態のものと、それを職人さんが手仕事で磨き上げたものを実際に触らせていただいたのですが、やはり全然違いましたね。
斉藤さんが「触りたくなる」ものに仕上げてくださったことに、とても感謝しています。

斉藤

私からすれば、マルニ木工らしさを引き出すようなデザインにしてくださったことがとてもありがたいと感じましたね。
出来上がった什器を検品する際に鶴岡さんがまず確認したポイントも、私たちが手作業で仕上げたRの部分でした。
色や寸法ではなく、最初にそこを見るところに「さすがだな」と思いましたね。

こだわりが詰まった店舗をぜひ実際に見て、触れてほしい

 

石原

鶴岡さんや斉藤さんのこだわりが詰まった什器が完成して、店舗が出来上がったときには、感極まるものがありましたね。
本当に綺麗すぎて、このまま保存しておきたいと思ったくらいです(笑)。
商品をディスプレイするための小さな台座もつくっていただいたのですが、売り物と勘違いされるんじゃないかと思うくらい完成度が高くて。
このデザインに恥じないようなお店にしていこうと、背筋が伸びました。

鶴岡

本当にすごかったですよね。これまでに什器のデザインは数々手掛けてきましたが、什器なのに家具のような、味わったことのない感覚で。
ぜひ多くの人に見ていただきたいですし、こだわり抜いた曲線部分を触ってみてほしいです。

  • 地域を代表する企業とのコラボレーションで唯一無二の店舗デザインに

  • 治一郎の代表的なお菓子であり、「木のケーキ」とも呼ばれるバウムクーヘンと木工什器の木目が印象深く重なる

  • 思わず触れてみたくなるこだわり抜いた美しい曲線

  • 一つ一つの什器も丁寧に創りあげ、お菓子と共にものづくりの精神が込められている

斉藤

私としては、いち広島県民として、広島の玄関口にこんなに美しいお店がオープンしたことを誇りに思いました。

石原

広島県にはずっと出店したいという思いがあったので、こういったかたちで実現できたことは忘れられない仕事になりましたし、広島のことが大好きになりました。
オープン後、ねらい通り什器をつい触っていくお客さまも多く、感動しましたね。

鶴岡

この仕事を通じて、ものづくりは人の縁だなとつくづく実感しました。
治一郎さんやマルニ木工さんとの繋がりはもちろん、たくさんの人と接点を持ちながら、ものづくりを通じて縁を広げていきたいですね。

施設情報

治一郎 ミナモア広島店

住所 広島県広島市南区松原町2番37号ミナモア2階
交通 JR広島駅徒歩1分
営業 定休日・営業時間は、ミナモアに準ずる

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