【Introduction to Solutions】
ディスプレイ業におけるDX推進の現在地。vol.3
大型商業施設のBIM化で見えた建築計画と空間デザインの融合
建設プロセスにイノベーションを起こし、建築工事の生産性を大きく向上させると期待されている「BIM」。大型商業施設『三井ショッピングパーク ららぽーと堺』(以下、「ららぽーと堺」)の環境デザイン業務にて、大成建設様と計画段階から 施工につなぐBIMソフト『Revit®』活用を行いました。当社では大型商業初のBIM設計である当プロジェクトについて、大成建設で建築設計を担当された田中様と施工検討を担当された保坂様、基本計画、基本設計を担当した当社BIMデザイン局 高橋との鼎談が実現。成功したポイントや今後の展望について詳しくお聞きしました。
- 施設名
- 三井ショッピングパーク ららぽーと堺
- 事業主
- 三井不動産株式会社
- 所在地
- 大阪府堺市美原区黒山
- 敷地面積
- 約74,300㎡
- オープン
- 2022年11月
- 業務範囲
- 【環境デザイン】
デザイン総括:大成建設一級建築士事務所
基本計画、基本設計、デザイン監修:丹青社
【スタジアムコート・フードホール】
基本計画、基本設計・実施設計、制作・施工:丹青社
※ニュースレター(2024/01)をPDFで見る
【1】それぞれの3Dデータが融合し、BIM案件に進化
高橋 今回のプロジェクトは、当社と大成建設様間での3Dデータの連携が実現し、結果としてBIM活用案件に進化しました。クライアントとの打ち合わせでは、3Dデータを用いて施設内を自由自在に歩いているかのように検証と説明を実施。「スタジアム」をコンセプトとした吹抜空間をいかに建築的かつ商業的に魅せていくかにおいて3D設計を行いました。設計の初期段階から空間イメージを伝えることができたため、勘違いやデザインイメージの齟齬などがなく、手戻りのない推進ができました。
田中 大成建設でもBIMの推進を掲げています。今回建築計画では、建築面積を極力コンパクトに計画したことで、モール部分の通路上部に吹抜がないながらに開放的な空間を実現するため、建築検証やクライテリア検証を目的に3Dデータを作成しました。一方で、施工部門でも同様にRevit®による3D設計を進めていたことから、活用度の高い3Dモデルに進化しました。
保坂 これまでは設計や施工それぞれが、必要な図面を書き起こしていました。施工部門では、鉄骨などの構造的な部分と、天井の梁やダクト、シャッターといった設備面などがどう納まるかの情報が必要ですが、2Dの図面上では分かりにくく、施工段階において初めて「納まらない」事実が発覚することがあります。 今回、施工前にRevit®データへ統合し、意匠と建築データを重ねることで意匠的な納まりが可視化され、先に問題点の洗い出しと調整ができました。BIMならではの利点が活かされたと思います。
高橋 建築BIMと内装BIMによる今までになかった価値として、デザイン、建築施工などのハード面だけでなく、クライアント希望のソフト面を建築計画の制約の中で諦めることなく、全員で同じ空間を作り上げる方向性を定められました。今後のBIM活用にも期待が持てる有意義な成果でした。
高橋 3Dを見て、クライアントのみならず関係各所にも誤解なくデザインや計画内容を伝えられたのも大きなメリットでした。大型商業施設開発を進める上では、図面に限らず多くの方が見ればわかる情報を提示することも重要と感じます。大型商業施設で、初期の企画・スケッチイメージがそのまま実現できた例はあまりないと思います。関係者と共に企画のこだわり部分を突き詰めたことで空間の魅力につながりました。
田中 テナントさんからも好評でしたね。自分の店が通路からどう見えるかなど、事前にわかることがリーシング上大変喜ばれたようです。デジタルサイネージのサイズや向きなども3Dでさまざまな角度から見ることで、納得感を持って決定することができました。設計者と同じレベルで理解頂くまでが早いためか、クライアントからブラッシュアップの要請をいただくことも通常より多く、密度の高い計画に仕上がりました。
保坂 3Dならではの高さや奥行きを、目線を変えることで現実同様に判断することができるようになり、「手すりは必要だろうか?」「天井設備が見えてくるが、どう納めるか?」といった確認作業の回答がすぐに得られます。施工前に確認しやすいので、追加や作り直しでかかっていた手間やコストが大幅に削減できます。それらの時間を使い設計業務に注力ができます。
田中 これまで自社で進めていたBIMが、他社と連携してお客さまにも活用効果を生み、施工にまで繋がったことで非常に良い事例となりました。課題を挙げるのであれば、今回活用できたのは一部であり、膨大な設計作業を進めていく上では、初期段階でRevit®データを作る負荷(時間)がかかる事ですね。
高橋 確かに、現状ではRevit®作業に長けた設計者は少ないですね。ですが経験豊富な人であれば、2D作業以上のスピード感で対応可能です。加えて、クラウドを活用することで一つのデータを国内外問わず複数のメンバーで同時に作業でき、各々の変更情報が逐一、データ内全ての図面表記に反映されていくことは革新的な作業効率向上です。
保坂 これまで2Dでの作図ですと、一部の情報が変更された場合、関連する図面にも反映が必要でした。しかしBIMソフトであれば、平面、断面、立面、すべてに自動で反映されるため整合性を確認するための時間が大幅に削減されました。
高橋 これまで手計算していたフードコートなどの座席数も、設計変更の都度、自動で計算してくれる集計表を作成でき、大きなストレスから解放され始めています。
田中 3Dデータがなければ新しく作らなければならないため、BIMは変更の多い案件に向かないといった説もありますが、実際には変更の多い案件こそBIMの真価が発揮されるのでぜひ試してほしいですね。
高橋 BIMは商業施設だけではなく、さまざまな分野でそれぞれの設計手法に対するメリットがあります。商業分野なら、ファミリに設備の耐久年数データや担当窓口などを加えることで保守管理面にも活用できますが、現状ではまだそこまで到達できていません。まずは施工の段階まで活用し、フロントローディングを実現しつつ、着実に納めていくところからですが、これからの展開が楽しみです。
保坂 フロントローディングは建築のあるべき姿だと思っています。今はまだ、そこに辿り着けるツールを手に入れた段階。活用が進めば作業効率の向上や業界の人手不足解消にも効果的でしょう。BIMがベースとなるよう普及のお手伝いをしていきたいと思います。
田中 総合建設業として、最初の計画を具現化していけるプロセスを確立していきたいと思っています。BIMが進めば法規の申請にも活用できるようになっていくでしょう。さまざまな場面で生産性の向上、効率化が期待できます。業界全体でトライしていきたいと思います。
【2】デザイン検討に時間と手間をかけられる「設計業務のあるべき姿」へ
【3】現状の課題点とその先へのそれぞれの想い
【COMMENT】
三井不動産株式会社 商業施設本部
業務推進室 業務推進グループ 福山 慎之様 ※開発当時、リージョナル事業部 事業推進グループ所属
本プロジェクトは、各社のBIMを活用した連携により、3つの効果がありました。
1)設計において、新しい商環境構築へのチャレンジとして、吹抜のないモール環境という課題に対し、基本設計時から3D空間を確認できた事でイメージと
相違なく竣工できた。
2)工事において、スタジアムコートは建築工事、環境工事、店舗工事区分が複雑な中でも、各社間の調整をスムーズに行うことができた。
3)関係者との意思疎通において、店舗・社内他部門との協議や社内承認がスムーズに行え、課題認識から解決までの時間を短縮することができた。
プロジェクト通して手戻りが少なく、これまでになく効果的な推進手法だったと実感しています。
株式会社丹青社 デザインセンター
コマーシャルデザイン局 局長 馬場 健二
BIMが建築及び内装業界全体に波及していくことで、企画、建築設計、内装設計、施工、運営、メンテナンスなどそれぞれのデータだけでなく、クライアントにもつなげていくことで新たな価値が生まれると確信しています。さらなる活用を市場分野としてそれぞれが発信、推進していくことに期待しています。
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『三井ショッピングパーク ららぽーと堺』~憩いとにぎわいを創出する、多機能な屋内型スタジアムコートを中心とした商業施設~
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