【Introduction to Solutions】
ディスプレイ業におけるDX推進の現在地。vol.1
デジタル活用の軸となるBIM普及の取り組みと課題
建築プロセスにイノベーションを起こす画期的なワークフローと言われる「BIM」は、ディスプレイ業においてどのような役割を果たし、どのような効果をもたらすのか。
丹青社社内の専門組織『BIMデザイン局』局長としてデザイン部門のBIM化を統括する岡崎勝久が、丹青社における現在のBIMの活用状況と見えてきた課題、これからの展望をお伝えします。
解説:岡崎 勝久(おかざき かつひさ)(デザインセンター BIMデザイン局 局長)
1992年丹青社入社。商業空間のデザインに従事し、海外駐在を経る。2021年グローバルスタンダードBIM化へ向け、BIM専門部署の局長として現在に至る。
【1】BIM(Building Information Modeling)とは?
BIMとは、3Dモデルに情報を付加し、設計だけでなく運用にも活用するワークフローのことです。コンピューター上に作成した3次元の建物のデジタルモデルに、コストや仕上げ、管理情報などの『属性データ』を追加することで、建築物のデータベースが生成され、それらの情報は、建築の設計、施工から維持管理までのあらゆる工程で活用できます。建築関連業務の効率化、建築業界の生産性向上・働き方改革に寄与するサステナブルな取り組みであり、カーボンニュートラルにもつながることから、BIMの義務化が世界的に広がっています。日本においても、2023年1月より国土交通省が『建築BIM加速化事業』を新設するなど、BIM推進支援の施策が行われています。
●建築分野におけるBIM推進の背景と現状
国土交通省が、設計・施工・維持管理・発注者・関連団体等計13団体に向けて行った「建築分野におけるBIMの活用・普及状況の実態調査(令和4年12月)」によると、BIMの導入状況は「導入している」と答えた企業が48%、「導入していない」と答えた企業が50%で、特に設計分野においては、総合設計事務所で81%、専門設計事務所で41%と、手がける内容や規模によってBIM導入に大きな開きがありました。
なお、BIMを導入しない企業・団体の理由としては、「発注者・業務上の関係者からBIM活用を求められていない」「CAD等で現状問題なく業務を行うことができている」「BIMを習熟するまでの業務負担が大きい」といった回答が多く、現業と並行して、新たにBIMを導入・対応することの難しさが窺えます。
【2】ディスプレイ業におけるBIM活用のメリットとは?
手がける空間がひとつひとつ異なり、建築に比べてスケールメリットの小さいディスプレイ業は、BIMの利点を感じづらく、建築分野よりも導入に遅れをとっているのが現状です。
しかし丹青社ではBIM化に注力することで、作図やプレゼンテーション等の「設計BIM」、検証や施工・工事等「施工BIM」への応用といった部分最適から、設計前の建築側とのデータ連携、竣工後の運営・維持管理までを含めた建築・内装プロセスの全体最適につながるBIMの活用が徐々に進んでいます。明確なフロントローディングを実感できるプロジェクトや、空間全体を使ったアートワーク製作への応用など、BIMの特性を踏まえたさまざまな場面でBIMが活用されています。
活用例
●点群撮影と空間のデータ活用
3Dレーザースキャナで撮影・取得した点群データからBIMモデルを生成できるため、現場調査を速やかに完了し、改修・改装のスムーズな開始が可能。
●建築と内装のデータ融合
建築と内装の計画レベルの差を解消した一体的なデザインで、より魅力的な施設づくりにつながる。
●イメージ共有による意思決定の迅速化
3Dパースやウォークスルー動画を共有することで事業者の迅速な意思決定を促す。
●事前シミュレーションによる生産性向上
初期段階から空間的不整合が確認でき、設計変更や見直し等の手間・時間が削減できるため、建築コスト削減や工期短縮を実現。
●効率的な維持・管理
使用建材・機材情報から、建物のメンテナンスや解体・廃棄時まで効率化。 等
【3】BIM化を推進するための組織内施策
建築・内装業の変化を見据え、丹青社は2016年にBIM導入を開始し、2022年9月にはディスプレイ業界におけるBIMを活用した最適なワークフローの確立を目指して、国内のディスプレイ業で初めて、BIMソフト「Revit®」を販売するAutodesk社(米国)と戦略的提携を発表しました。
BIMは導入から習熟までの負担の高さを懸念されている企業も多いとされます。丹青社でも、全プロジェクトの設計・施工のBIM化を徹底できているわけではありませんが、メリットを感じられる今に至るまで、さまざまな方法で社内でのBIM普及を進めてまいりました。その一例をご紹介します。
(1)スモールスタートで徐々に浸透
2016年に特定の社員に対してBIMを導入し、社員のスキル向上が見られた2019年から、BIMを活用する空間分野やプロジェクト数を増加させ、2020年から3Dソフトの導入を本格拡大しました。そしてデザイナー、制作職などさまざまなメンバーで構成する全社委員会『BIM推進委員会』を立ち上げ、設計から施工まで一貫してBIMデータを活用する流れをつくりました。2021年にはデザインセンター内に専門組織『BIM推進局』が誕生し、2023年には『BIMデザイン局』としてBIM活用を進めています。
(2)トップからの積極発信
中期経営計画のデジタル活用の一環として、明確に「BIMの導入・活用」を掲げ、代表取締役社長をはじめとして、デザイン部門および制作部門のトップらが、社内外での発信機会の度にBIM推進について言及。『全社のミッションとして、BIMを活用していく』というメッセージを、社員をはじめとしたさまざまなステークホルダーに伝え続けています。
(3)組織横断での情報共有
社員および協力会社に向けて導入・スキルアップセミナーを実施するほか、スキルを共有するためのユーザー会議を毎月開催しています。さらに『BIM MAGAZINE』を発行して、BIMの活用事例などのナレッジを全社共有し、人材育成と知識向上につなげています。また、定期的にBIM利用に関するアンケートを実施。活用評価指標を設けてBIM活用状況を把握するとともに、意見を吸い上げることで、状況に合わせた全社のBIM推進活動に役立てています。
(4)BIMに特化した社内表彰の実施
BIMを活用したプロジェクトの成果を評価し、社内に共有するため『BIM AWARD』を開催しています。2022年は特に「BIMデータの連携で生産性向上、付加価値向上が実現できたか」をテーマに、設計・制作間でのBIM連携、制作・協力会社間でのBIM連携、建築との連携、設備BIM連携など、連携を通して得られた効果に焦点をあてて、選考が進められました。
【4】ディスプレイ業のプロセス変革の鍵は、業界を越えた一体での連携。
BIMによる空間づくりのプロセス変革は、環境・社会・経済の向上に寄与すると捉えています。しかし、すべての都市や建築BIMから、ディスプレイ業界の空間づくりまでを連続的にとらえた統合データとしてのBIM活用の可能性を拡げるためには、事業者をはじめ、ゼネコン、設計者、専門工事業者、メーカー等、建築・ディスプレイ業に携わるすべての関係者のさらなる連携・推進が必要です。
特に、「発注者からBIM活用を求められていない」ことを理由として、BIMの導入を見合わせている企業・団体の多さから、まずはプロジェクトの最も川上である事業者にBIM導入のメリットを伝えることも大切でしょう。例えば、設計段階では3Dモデルによる理解促進、環境負荷を低減した施設づくり、施工段階では工期短縮・品質向上、さらに運営段階では蓄積されたデータに基づく適切な維持管理の実現などが挙げられます。今後、各業界のBIM導入によって建築物のデータベースの精度が向上することで、内装を含めた建築全体におけるライフサイクルアセスメントへの展開が可能になり、より環境に配慮した施設運用を目指せます。また、2025年度には、BIMを用いた建築確認申請・審査により建築確認の効率化が図られる予定であり、直接的にBIMの利点を実感できるようになるのではないでしょうか。
当社はBIMを活用したプロジェクト拡大を通じて、ステークホルダーにその利点を感じていただくとともに、当社のBIM推進のノウハウ・実例をご紹介することで積極的に関係者へ働きかけ、ディスプレイ業および関連する協力会社等へのBIM化浸透へとつなげ、業界従事者の労働環境改善やBIMのデータ集約や分析技術を活用したカーボンニュートラル達成への貢献を推進してまいります。