秋山 奈美(左)ヒューマンリソースデザインセンター 人事部 人材開発課/課長
主に研修や教育に携わり、人事の立場から働きやすい環境や制度づくりに注力。
石本 真弓(中左)バリュープロダクションセンター バリュープロダクション統括部 制作戦略室 制作戦略課
制作現場を経験した後、現在はバリュープロダクションセンターの一施策として女性制作職のキャリア支援を行う。
つなぐプロジェクトにおいては中心メンバーとして旗振り役を担う。
宮川 義之(中央)関西支店/シニアエキスパート
制作現場に精通したベテランとして、関西支店独自の視点から女性活躍を推進し、若手の自律的な変革を促すアドバイザーを務める。
会田 梨紗(中右)ヒューマンリソースデザインセンター ウェルビーイング推進部 労務管理課/課長
労務・勤怠システムの管理運用や長時間労働の是正など、社員が幸せに働ける基盤づくりをサポートしている。
須田 怜那(右)関西支店 制作推進統括部 QC部
制作職の経験とライフイベントを両立させた視点を活かし、現場視点で悩みの解決にあたる。
まず、つなぐプロジェクトの概要について教えてください。
石本
つなぐプロジェクトとは、若手社員が自分らしく働くことのヒントを得るために、制作職の中堅・ベテラン社員が自身の経験を伝えるコミュニケーション機会を創出する取り組みです。
2023年からスタートし、これまでは特に女性制作職に焦点を定め、ワークショップや座談会を開催してきました。近年は施工現場で活躍する女性が増えていますが、出産や育児といったライフステージの変化をきっかけに、多くの女性メンバーがバックオフィスなどへキャリア転向しています。制作の仕事を続けたいという想いを抱えながらも、キャリアをあきらめざるを得ないケースも少なくありません。そこで、まずは制作職の女性メンバーによる座談会を開き、「本当はどう働いていきたいか?」という本音をすくい上げていきました。そこで得た気づきを、ワークショップなどを通じて全社に共有し、議論の種をまいています。
私たちが目指すのは、誰もがやりたい仕事をあきらめなくていい環境づくりです。一部の人の問題ではなく、会社全体の「自分事」として、誰もが心地よく働ける新しい当たり前をここからつくっていきたいと思っています。
本プロジェクトにおける各部署の取り組みについて教えてください。
会田
労務管理課としては、労務環境や勤怠システムの整備・運用に注力しています。直近では、現場の多様な働き方を支える基盤としてフレックスタイム制度を導入しました。物件によって稼働時間にばらつきがあるので、コアタイムなしのスーパーフレックス制によって社員それぞれの裁量で働く時間を決められるようになりました。現場の方からは、働く時間をフレキシブルに調整できるようになったと好評をいただいています。
石本
制作戦略課では、女性制作職の社員が出産や育児などのライフイベントによってキャリアを継続できないという問題と、それによって会社側も優秀な人材を活かせず要員計画に支障をきたしているという二軸の課題を解決しようとしています。今期は、子どもの急な発熱などで現場を抜けなければならない状況を想定して人材を配置する「ポイント管理」や、現場へのリモートカメラの設置などをトライアル的に検討しているところです。まさに、つなぐプロジェクトで得られた社員の声をヒントに進めている段階ですね。
秋山
中期経営計画の中で掲げている「女性管理職比率15%以上」という目標に向け、今期改名したDE&I委員会やヒューマンリソースデザインセンターで女性活躍推進に取り組んでいます。また昨年度は、営業職や制作職からキャリアチェンジした方々の事例をセミナー形式で紹介し、働き方について考える機会を設けました。現場の状況と照らし合わせながら、今後も女性社員の活躍を継続的に推進していきたいと思っています。
つなぐプロジェクトで取り組んだ女性制作職メンバーによる座談会では、どのような気づきが得られましたか?
石本
座談会では「トイレにサニタリーボックスがない」「着替える場所がない」といった、男性の上司や先輩には相談しづらい切実な課題が明らかになりました。当事者だからこそ出てくる意見を集めることができたことは、施策の検討・実施にも大いに役立っていると思います。例えば、今年度リニューアルした制作職のワークウェア。下着が透けにくく汚れも気にならない濃い色、サニタリー用品も携帯できるシークレットポケットの新設など、女性制作職が抱える課題を解決するための工夫をいくつも凝らしています。
当初は先輩から後輩へ知恵や経験をつないでいくための場でしたが、横のつながりを深める要素も加わり、より課題解決に向けたヒントを得られる場になったと思います。
女性制作職の声を取り入れながらリニューアルしたワークウェア
秋山
横のつながりという面では、心の拠り所としての価値も提供できていると感じています。現場で働く女性社員たちが「自分だけじゃなくみんなにも同じ悩みがあるんだ」と感じられたことは、心理的安全性を高めることにもつながったのではないでしょうか。
会田
労務の立場からも、現場の空気感を直接吸い上げることで、「生理休暇があることは知っているが、名称のせいで申請しにくい」といった制度上の細かな障壁を把握することができました。こうした実感が、より活用しやすいルール整備への足掛かりになっています。
座談会を経て行った報告会では、どのような成果が得られましたか?
石本
これまでは女性制作職に焦点を当ててきましたが、これから制作職全体、ひいては全社で考えるフェーズに移行していくための第一歩として、制作部門長への活動報告を行いました。部門長の方々も常日頃から女性のキャリア継続や現場の環境改善について、考えを巡らせていたことが再認識できました。報告会を通じて、課題解決に向けて皆が同じ方向を向いていることが確認できたのは大きな前進でした。
秋山
座談会の後、女性の部下がいる制作部門長の方から「座談会でどんな意見が出たか教えてほしい」と声をかけられたのは印象的でしたね。女性が抱える悩みについて気にかけつつも、異性間だとどうしても踏み込みにくい。報告会はそうしたマネジメント層の方へのフォローにもなったと感じています。
石本
報告会を通じて課題共有をしたことで、各部門が施策を立てて課題解決に向けて動いていることがわかりました。例えば、「トラック型のトイレの導入を検討中」といった各々の動向が伝わって意見交換が活性化するなど、部署の垣根を超えた連携も生まれています。
関西支店では独自の取り組みを推進しているそうですが、内容について教えてください。
宮川
関西支店では制作職における女性比率が急速に伸びており、「従来のやり方を続けていたら組織は破綻してしまう」と、強い危機感を抱いたんです。会社としての生産力を守り、さらに向上させていくためには、女性たちがライフイベントを経ても当たり前に現場のフロントに立ち続けられる「仕組み」が必要不可欠。ただ、それは会社が一方的に制度を整えれば済む話ではありません。まずは当事者である彼女たち自身に、「5年後、10年後に自分たちがどうなっていたいか」「会社はどうあってほしいか」を自分事として真剣に考えてほしかった。そんな想いから、中堅女性メンバーたちにミッションを託しました。
須田
宮川さんからのミッションを受け、関西支店でも座談会を実施しました。徹底したのは、何を言ってもいい「本音で話せる場づくり」です。そこで出てきた新鮮な意見の中でも、特に印象的だったのが「生理」というテーマでした。
例えば、生理痛には大きな個人差があり、まったく業務に影響しない人もいれば、2〜3日は横になっていないと動けないほど苦しむ人もいます。生理は誰もが知っている言葉ですが、実は身近な女性同士でも深くは理解し合えていないのではないでしょうか。まして男性社員にとっては未知の領域ですよね。「お互いの違いを知ることから始めなければ、本当の意味で助け合える現場は作れない」。そう強く感じ、生理への理解を深めるための研修と体験会を企画しました。
研修は、セミナー、生理痛体験、そしてワークショップをセットで行いました。特に、生理痛VR体験装置「ピリオノイド」というデバイスを使った生理痛の再現体験(提供:株式会社マイナビ)は、男性社員にとっても衝撃的だったようです。
ワークショップでは5人ほどのチームに分かれ、あらためて「生理」について真剣に語り合いました。1時間、2時間と時間をかけて向き合う中で、男性社員たちが「ちゃんと考えてくれている」という温度感を肌で感じることができましたね。「みんな言葉は知っているけれど、実は深くは知らない。どう向き合うべきか考える機会もなかった」。そんな状況を打破できたのは、非常に大きな収穫だったと思います。
© Linkage inc.
宮川
私自身も体験会に参加しましたが、男性にとって生理は実感する機会がまったくない未知の領域です。だからこそ、今回「ピリオノイド」を使って痛みを体験できたことには、大きなインパクトがあったと感じています。「これほどの痛みの中で、彼女たちは現場に立っていたのか」と。その上で、「じゃあ現場でどう配慮すべきか」を語り合えたことは本当に有意義でしたね。
生理痛は女性同士でも個人差が激しいという話がありましたが、男性にとっても「人によってこれだけ違うんだ」ということを生の声で聞けたのは、部下を持つ立場として非常に大きな学びになったと思います。制度を整えるだけでは解決できない、現場の「空気感」のアップデート。それを本社のような大きな組織ではなく、家族的な距離感を持つ関西支店というスモールスケールでまず実現できたことは、全社的な変革に向けた重要な一歩になったと思います。こういった「理解の種」を蒔き続けることが、長く働き続けられる組織の基盤になるのだとあらためて強く感じました。
今後の展望や、つなぐプロジェクトで叶えたい理想について教えてください。
石本
女性制作職が抱えている課題を解決することが、間接的に介護や病気療養中の方が制作職を続けやすくなることにつながっていくと思っています。
女性制作職の課題解決を皮切りに、誰もが働きやすい環境を整備するための全社的な「気付き」にしていきたいです。
秋山
お子さんを育てながらいつかは制作職の現場に戻りたい、という社員もいるので、しっかりバックアップして先行事例をつくっていきたいです。
そのためにも、人事としてしっかりアンテナを張り、現場と一緒に考えることを続けていきます。
会田
丹青社の「バリュー/私たちの価値観」の中に「個性をかけ合わせる」という項目があります。
100人いれば100通りのキャリアパスが尊重され、誰もが最適な働き方を自由に選択できる組織づくりを、制度面から支えていきたいです。
須田
関西支店で出た意見は全社でも共通するものだと思います。
関西支店らしいフットワークの軽さを活かし、まず自分たちが形をつくり、それをなにかしらの形で全社に展開していければと考えています。
宮川
縁あって入社してくれた社員ですから、できるだけ長く続けてほしい。
現在活躍しているメンバー自身が新しいロールモデルとなり、多様な選択肢が当たり前にある組織へと進化していけるよう、その一助を担っていけたらと思います。