ビルを百年使う。
強い想いから生まれたプロジェクト「R2」の現在とこれから
丹青社ではイノベーション推進の一環として、各種研究開発や実証実験に積極的に取り組み、新サービスや新事業の開発を通して新しい価値の創造に挑戦し続けています。その一つであり、順調に成長しているプロジェクトが築古不動産をリノベーションし再活性化する新規事業「R2(Real-estate Revitalization/不動産再活性化)」(以下R2)です。本ニュースレターでは、プロジェクトメンバーの南と松本から、プロジェクト発足の背景や現在の取り組み、そして目指す未来について紹介します。
南 夏樹(右)
事業開発センター R2プロジェクト室 室長
1985年に丹青社入社後、営業職として博物館を中心とした空間を数多く手掛ける。2003年から海外事業に携わり、中国での子会社設立に参画。帰国後は企画開発統括部で新規事業の創出に従事し、2020年に松本と共にR2を立ち上げる。
松本 康靖(左)
事業開発センター R2プロジェクト室
2007年に制作職として丹青社に入社。2011年にプランナーに転身し、展示会や企業ミュージアムの企画に携わる。その後は企画開発統括部で新規顧客開拓と新規事業開発に従事し、2020年にR2を立ち上げる。
【1】それぞれの想いから生まれた「ビルを百年使う」ためのプロジェクト
松本 R2にはサステナブルやSDGsといった社会的な観点ももちろんありますが、発端としては個人的な想いの方が大きいです。というのも、丹青社で展示会などの空間づくりに携わる中で、「作って壊す」だけではなくて、あるものを活用してもっと長く使えるようなビジネスモデルを生み出せないかという課題意識があったんです。
南 私は博物館の空間づくりに長く携わっていたので、むしろ古いものの価値に触れる機会が多くありました。しかし、日本の不動産業界では新築信仰が根強く、例えば法定耐用年数である築50年を超えたビルはまだまだ使えたとしても、どんどん取り壊されてしまう。そんな風潮に疑問を感じていて、古いビルのリノベーションやコンバージョンに前々から関心を持っていました。
松本 最初は競売物件に着目した事業を構想していたのですが、法規制などの壁が高く断念。そこに南さんからアドバイスをいただき、古いビルを取得し、丹青社の強みであるデザインの力でバリューアップした上で売却するというビジネスモデルに軌道修正。「ビルを百年使う」というシンプルで力強い事業コンセプトが生まれました。
【2】試行錯誤を繰り返しながら利益創出に成功
松本 2018年ごろから事業計画や扱う物件の条件検討などを進め、2020年に新規事業プロジェクトとして発足。すぐに、最初の物件となる千代田区のビルを取得しました。このビルはバリューアップする前に売却することになってしまったのですが、結果的に利益創出に成功。思い描いていた形ではないにせよ、ここで成功体験を得られたことで風向きがいい方向に変わった感覚がありましたね。
南 実は、当社ではこれまでも不動産事業への参入を検討したことが度々あったのですが、なかなかうまくいかなかったという背景がありまして。R2を立ち上げる際もかなり慎重に議論を重ねてきました。最初の物件で利益を生み出せたのも、過去の失敗事例があるからこそ。これまでの学びを活かして、軌道に乗せることができました。
松本 その後すぐに中央区のビルをマスターリースで借り上げ、今度はリノベーションを施すことができました。ところが、リーシングを開始したところでコロナ禍による緊急事態宣言が発令され、空室が全く埋まらない事態に陥りました。ここでスキームを見直し、中小ビルにおいてはリスクの高いサブリース型のモデルではなく、購入を基本とする方針に変更しました。
南 三棟目も同じく中央区の「ウィンド小伝馬町ビル」を取得。こちらはリノベーション後に全室を埋めることができ、ようやく思い描く形でバリューアップを行うことができました。これまでは事業検証期間としていたのですが、事業化の目処が立ったので、本年度から正式な事業として改めてスタートを切りました。現在は他に二棟のビルを所有しており、バリューアップを進めています。
【3】丹青社の柱の一つとなる事業へ、目指すは売上100億円
松本 直近の目標としては、まずは現在取得しているビルをしっかりバリューアップすること。その上で、今後はもっと多くのビルを同時並行で手がけていけるように、予算と人員を増やしていきたいと思います。最終的には、丹青社の柱の一つと言えるような事業を目指しています。具体的には、売上100億円規模の事業に育てていきたいですね。
南 新規事業を成功させる鍵は、なんでもゼロからイノベーションを生もうとするのではなく、既存事業の隙間に目をつけることだと思っていて。そういう意味では、R2のマーケットは大手デベロッパーが手につけにくい領域でもあり、可能性を大いに感じています。きちんと手を入れればまだまだ使えるのに、老朽化して壊されるのを待っているような中小規模のビルがたくさんある。そこを取りこぼさなければ、松本のいう売上100億円という目標は決して無理があるものではないと確信しています。現状に満足することなく、インパクトのある事業として成長していきたいです。
【ウィンド小伝馬町ビル 再生設計者コメント】
建築家/株式会社渡邉明弘建築設計事務所 代表取締役
渡邉 明弘様
2016年に再生をデザインする設計事務所、渡邉明弘建築設計事務所を創業。受賞歴に日本建築家協会 優秀建築選、GOOD DESIGN AWARD BEST100、これからの建築士賞、日本空間デザイン賞 サステナブル空間賞など。一級建築士。
ようやく社会の課題として定着してきたストック活用に、さまざまな事業者が本腰を入れ始めています。 まだまだ多くが自己保有物件の健全化や単なる転売目的の美装の延長に止まる中、R2は自ら物件を取得し、建物を長寿命化するという信念の下に再生しています。他社の事業と比べて色々な困難が伴うプロジェクトですが、それを可能にしているのは未知の地に対する挑戦心や決断力を持った人材です。70年に渡るテンポラリーな空間づくりの経験を、長持ちする社会資本の形成に活用する、野心的かつ価値ある事業だと思います。例えば、増改築や用途変更などの建築確認を伴うプロジェクトに広がると、社会的な意義はさらに揺るぎないものになりそうですね。
関連情報
事業紹介 > 提供サービス・ソリューション > R2~建物ストックの再活性化で気候変動抑制に貢献
関連のお知らせ
2024.04.03 > 築50年超の旧耐震ビルをフルリノベーションし、100年使えるビルへ蘇らせたオフィスビルをオープンしました
2021.05.13 > 築古不動産をリノベーションし再活性化する新規事業を本格始動しました
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