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これは道具か、芸術か?大阪・関西万博での自社展示「TOOL OR ART」に込めた想い

インタビュー

1970年の大阪万博から、数々の万博でパビリオンや施設の空間づくりに携わってきた丹青社。今回の大阪・関西万博においては、初めてブース出展を行い自社の展示にも挑戦しました。未来への問いと提案としてフォーカスしたのは、アートとしての工芸作品を取り扱うオンラインマーケット事業『B-OWND(ビーオウンド)』の試み。プロジェクトの中核に携わった3名が、展示に込めた想いを語ります。

SPEAKER

山口 剛史
(中)
文化・交流空間事業部 業務部 計画管理課
1996年に丹青社入社後、美術館や博物館など文化施設領域の営業をおよそ20年担当。その後運営プロデュース部へ異動し、施設運営に携わる。2024年より大阪・関西万博「フューチャーライフエクスペリエンス」の自社展示に携り、プロジェクト全体をバックアップ。最近ハマっていることは、マーベルやDCなどアメコミヒーロー動画を一気見すること。

森田 えりか
(左)
デザインセンター プランニング局 プランニング2部
2006年に中国のグループ会社である丹青創藝設計咨詢(上海)有限公司にデザイナーとして入社し、商業・展示空間の設計に携わる。帰国後は関西支店に所属し、民間企業から行政まで多様な分野の物件にプランナーとして参画。古いものと中華圏の文化にロマンを感じやすく、古代の中国語はどんな発音だったのだろう、などと頭がタイムスリップすることがある。

佐藤 明日香
(右)
デザインセンター 関西デザイン局 デザイナー
2017年にデザイナーとしてキャリア入社し、2021年より関西支店に配属。文化施設や公共施設をはじめ、民間企業の空間設計にも幅広く携わる。好奇心と探求心の赴くままに、プライベートや地域活動においても日々アイデア創出や制作活動に勤しむ。モットーは「座辺師友」

まずは、大阪・関西万博への参加の経緯を教えてください。

山口

1970年の大阪万博でパビリオンづくりに携わった実績は、丹青社はもちろんディスプレイ業界にとって成長の大きな契機になりました。その後もさまざまな万博に携わり、今回の大阪・関西万博でも『日本政府館』『ガスパビリオン おばけワンダーランド』『スシロー 未来型万博店』といった約10館ものパビリオンや、物販・飲食施設などをお手伝いさせていただきました。そこで、万博への恩返しという想いも込めて、今回は展示する側としても参加することを決めたんです。参加したのは、フューチャーライフエクスペリエンスの期間展示。丹青社の事業の一つである、アートとしての工芸作品を取り扱うオンラインマーケット『B-OWND(ビーオウンド)』にフォーカスを当てた展示空間を創出しました。

 

どのような展示を、どんなプロセスで進めていったのでしょうか

山口

B-OWNDは、工芸を「日本の美を表現する最高峰のアート」として捉え、テクノロジーを活用して世界に広げることをミッションに掲げています。そこで、B-OWNDが取り扱うアーティストが制作した茶器を用いた「未来の茶会」を提案してみたらどうかというところからプロジェクトがスタートしました。

 

森田

その上で、B-OWNDとして掲げているミッションや、丹青社として伝えたいことを整理しながらプランニングを進めていきました。中心に据えたのは、B-OWNDのプロデューサーである石上さんが持つ「分断を調和に変える」という想い。その想いから生まれた「TOOL OR ART」というコンセプトを、今回の展示や茶会を通して来場者の方に伝えることを基軸にしていくことになりました。ツールかアートか、その境界はあるのかないのか、あるとすればどこにあるのか、そんな問いに対する気づきをお客さまに体験してもらうために、「茶会の体験」と「茶器の展示」が共存する空間にしていくことになりました。

 

佐藤

実際の空間では、中央に茶器が「TOOL」として機能する茶会体験のステージを設置し、周囲には茶器を一作品ずつ象徴的に「ART」のように展示しました。そして壁面中央には、茶会では欠かせない要素である掛け軸をデジタルで制作した「デジタル掛け軸」を配置。茶会の様子を周囲から見ている人も含め、展示空間全体を茶室へと昇華させる装置として位置づけました。アートだと思い鑑賞していた個性的な茶器が、茶会ではツールとして機能する。その一連の体験によって、来場者の方自身が「TOOL OR ART」について考える-。そんな「体験」を意識して空間を設計しました。

 

「TOOL OR ART」を体現するために特に意識したことはありますか?

森田

最も意識したのは、ツールとアートの境界を示すのではなく、そこにモヤモヤを感じたり気づきを得たりできる空間にすることです。丹青社のふだんの仕事であれば、お客さまに対して自分たちなりの仮説を立てて答えを提示することがプランナーの役割ですが、こちらの展示では自分たちの中に正解を持たないことを強く意識しました。ある意味、無責任なプランニングに挑戦できたことは、自分にとっても大きな学びになりました。

 

佐藤

設計としても、「TOOL」と「ART」の間を意識させるために、壁を作るのか、色を分けるのかなど色々と検討を重ねましたが、最終的には境界線は来場者自身がそれぞれ考えるべきということで、見えない境界線を来場者の方が想像できるよう、中央・周囲とレイアウトを分けるかたちに落ち着きました。また、入場したらすぐに全体が見通せるコンパクトな空間なので、日本の「侘び寂び」的な美意識やB-OWNDのブランドを感じられるよう、シンプルに削ぎ落としたデザインにしています。

 

森田

実際に茶器を使った茶会を体験することについては、運営面の視点からも最適な方法を検討していきましたよね。

 

佐藤

そうですね。万博という一度に多くの人が訪れるであろうことから導線設計やバックヤードの計画はもちろん、一度にどれくらいの人に体験してもらうか、体験時間の中でお茶の量はどれくらいが適切かなど、当日のオペレーションも含めてさまざまな検証を重ねていきました。もちろん、グラフィックや映像といったコンテンツも含めて、ハードからソフトまでアウトプットのクオリティにもこだわりました。

 

山口

空間づくりを生業とする丹青社として訪れた方々に心に残る体験をしてもらいたいという想いは、全員に共通していたと思います。この空間自体が丹青社を表現する場なので、露骨な宣伝やアピールになりすぎないよう、会社紹介やコーポレートロゴといった要素は最低限に抑えています。

 

実際の反応はいかがでしたか?

山口

森田さんのこだわりはまさに狙い通りに実現できたんじゃないかと思いますね。「アートだと思ってみていたあのゴツゴツした茶器で、本当にお茶を飲むの?」というような驚きや困惑のような反応が多く見られました。

 

佐藤

茶会の中でも、「その茶器すごいですね」「ちょっと持たせてもらえませんか」というようなその場で初めて出会った来場者同士から会話が生まれているのを何度か見かけて、まさに「分断を調和に」という思いが叶えられたのかなと、嬉しい気持ちになりました。またハード面では、システマチックな茶会ステージにしたことで、正座と着座どちらで参加するか来場者が選べるようにしました。正座が苦手な方からベビーカー連れの親子や視覚障がいをお持ちの方なども参加してくださり、ダイバーシティなデザインを提供することができたかなと思っています。

 

山口

7日間の期間中で7,000人以上の方にブースにお越しいただき、茶会体験は約400名もの方に参加していただきました。アンケートの反応も良く、手応えを感じることができました。

 

丹青社として初となる万博での自社展示。振り返ってみていかがでしたか?

山口

最も良かったのは、「オール丹青」で臨めたことです。プランニングをした森田さんや設計を担当した佐藤さんをはじめ、制作のメンバーがきっちりと空間を仕上げてくれたり、空間演出を担うCMIセンターが曲面へのプロジェクションマッピングを実現してくれたり。広報などのゼネラルスタッフ、また協力会社の方々も含めて多くの力を総動員して、一緒に創り上げました。当日のオペレーションについても、40人以上の有志メンバーが手を挙げてくれ、自社社員を中心に運営することができました。私自身は運営プロデュース部で施設運営の経験があるため、施設の来場者の方と接する機会が多くありましたが、多くのメンバーにとっては新鮮な経験だったと思います。社内アンケートでも「勉強になった」「ユーザーを間近でみられたのが良かった」という声が多くありました。万博での自社展示を通じて、これまでとは違うかたちで万博に携わることで、それぞれの社員がかけがえのない経験を得られたのではないかと思います。

 

本日はありがとうございました!

丹青社 事業開発センター 事業開発統括部
B-OWNDプロデューサー 石上賢 コメント

約100年以上前のパリ万博やウィーン万博以降、工芸は機能をもつがゆえにクラフトとして翻訳され、「純粋芸術(Fine Art)」のカテゴリーに入れられてきませんでした。大阪・関西万博でのB-OWNDの展示は、そんな欧米的な美の基準へのアンチテーゼを意図しています。丹青社内外の多く関係者の皆様のおかげで、約7,000人以上がこの空間を訪れ、さらにはその一部の方は後日ギャラリーに来廊いただき、実際に作品を購入してくださいました。今年行われた海外イベントの展示でもB-OWNDの試みは話題となり、工芸をめぐる国際的な対話の起点になりつつあります。私がB-OWNDを通じて更新したいのは、西洋的な二元論の価値基準そのものです。それは、今回の展示のコンセプトである「Tool or Art」で扱ったような、道具かアートか・日常か非日常かという問いを超えたものだと考えています。暮らしと精神性、作り手と使い手、ローカルとグローバル、自然と人間などの対極を接続する「関係の媒体」として、矮小化された個別の概念に囚われない二元論を超えた概念として「工芸」を捉え直すことこそが、日本の文化全体の付加価値形成のヒントになると考えています。B-OWNDは、東洋から美の価値基準を更新するルネサンスを興こすような工芸のムーブメントへと、大きく飛躍していきたいと思っています。

B-OWNDについて

日本の美を表現する最高峰のアートとしての工芸作品を販売するオンラインマーケットです。アーティストと作品を丁寧に紹介することで、作家と購入者を繋ぐ場としてのプラットフォームを目指しています。

また、サービス名には日本の“美(bi)”、をブロックチェーンで(b-)、世界中の人々と繋げ(bond)、保有する(own)ことで、現代のアートシーンを乗り越える(beyond)意味が込められています。

B-OWNDウェブサイト:https://www.b-ownd.com/

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